しかし、半年の同棲期間中に買ったばかりのテレビなどは、中古品としても十分価値があるはず。捨てたと主張するためには、そう考えるのが当然であるという事情がない限り、“必要ない”などの明確な意思表示がないと、所有権放棄とは認められないと思います。
あなたは、彼女が置いていったテレビなどを特別の合意もなく居室で保管して利用しているのですから、義務なく他人の事務(この場合、保管という事務)を始めた者として民法の事務管理者の立場にあります。事務管理者には、委任の規定が適用され、本人である彼女から要求があれば、返さなくてはなりません。例外は壊れて修繕費などを出した場合に、その支払を受けるまで留置できるだけです。
あなたの彼女の購入物を返さなくてもよいとの発想が、どこから出たのか。それはたぶん、婚姻後に夫婦で協力して形成した資産は名義の如何を問わず、夫婦共有財産として離婚の際には、その帰属を定める(財産分与)ところからきているのでしょう。ただし、半年間の同棲が家計を共にする夫婦といえるほどの実態がなければ、財産分与の考えは適用されません。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2023年8月18・25日号