交際関係が終わりを迎える時、すんなりとことが進めばいいが、場合によっては「立つ鳥跡を濁さず」とはいかないこともある──。なかには、関係解消に伴い必要となったさまざまな実費を請求されるケースもあるだろう。同棲を解消したカップルにおける“引っ越し費用の請求”について、弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
娘のことで相談です。娘は交際していた男性と同棲を始めたのですがうまくいかず、半年ほどで住んでいる部屋を引き払い、同棲を解消することになりました。ところが、相手の男性は「別れたいのはお前なんだから、引っ越し費用はお前が出せ」と引っ越し代を請求しています。
別れの原因は、性格の不一致です。娘が浮気をしたなどの原因を作ったわけではないので、払う必要はないと思うのですが、どうしたらよいでしょうか。(三重県・55才・女性)
【回答】
ご質問では、
【1】娘さんが一方的に出ていくのか
【2】住まいの賃貸借を解約して2人とも出ていくのか
どちらかわかりませんが、男性が負担を要求する引っ越し費用は、【1】の場合だと娘さんに発生する費用、【2】の場合は男性にかかる費用のことでしょう。
半年間でも夫婦同然に暮らしていれば内縁関係で、その解消には、離婚の場合と同様、財産分与や内縁解消の原因によっては慰謝料の問題も発生します。しかし、引っ越し費用の負担が争われたケースは経験したことがありません。
同棲生活の場に持ち込んだ自分の物や2人で買った物のうち、別れに際して自分の物にすることに合意された物は、その人の所有物です。所有している物をその場から持ち出すことは、所有権の行使ですが、半面、義務でもあります。別居により立ち退くのですから、出ていく人が所有物を置いておくことはできないからです。
そこで通常は、出ていく人の所有物はその人が運び出す義務があると理解されます。そのためにかかるお金は、運び出す義務を履行する費用と解されます。民法では、「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする」と定めています。