2021年4月に施行された「70歳就業法」によって定年後の働き方は大きく変わった。働く意欲のある人については70歳まで雇用することが企業の努力義務となった。
「再雇用」や「転職」で定年後もフルタイムで働くか、生活のバランスを考えてアルバイトなどで短時間働くかなど、それぞれの人生の決断が必要となる。ただ、その判断を誤ると人生の後半戦で思わぬ“地獄”を見ることになるかもしれない。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が言う。
「退職金を受け取る時点で老後資金が十分でなく、定年後も働こうという人は少なくありません。『不足分だけアルバイトで稼ぎ、残りの時間は趣味を楽しもう』と考える人もいますが、その場合、最悪のケースになるリスクがある」(以下「 」内同)
溝上氏の言う最悪のケースとは、「老後破産」や「熟年離婚」による生活苦だという。
「現役時代同様に外食や趣味のゴルフなどを楽しんでいると、時間がある分、お金を使う機会が増え、想定より早く退職金を食い潰しかねない。定年後の収入を“雇用の調整弁”と言われるアルバイトに頼れば、シフト削減やクビになるリスクから生活資金が枯渇する恐れがあります」
そうした収入の不安定さに、夫婦関係の悪化が追い討ちをかけることも。
「大手企業を退職後、気ままなアルバイト生活を始めた私の知人は、熟年離婚で自宅などの財産を妻に取られ、地方で1人アパート暮らしになりました。生活ぶりによっては借金を背負うことになりかねず、老後破産の可能性もある」
定年後の再雇用は収入が安定する分、有利ではあるが、「現役時代と同じ考え方では年下上司と揉めて、人によっては1~2年で会社を辞めてしまうケースもある」という。
「定年消滅時代」を迎える今、社員として円滑に働き続けられるかどうかが老後の分かれ道になるかもしれない。
※週刊ポスト2023年9月1日号