コロナ感染拡大で“弱り目に祟り目”
本業の事業モデルについて単純化して説明すれば、100億元で開発用地を仕入れたとすると、その土地を担保として新たに100億元の資金を借り入れ、その資金でまた別の土地を仕入れ、その土地を担保にまた資金を借り入れるというやり方で、土地在庫を無限に増やしていく。
マンション建設に当たっては、着工前の段階で一部の区画の一部のマンションを安く売り出すこと(青田売り)によって資金を捻出し、さらに建設費用の一部について建設会社、資材会社からの買掛とすることで、最小限の自己資金でプロジェクトを進める。
経営サイドでは、土地供給先である地方政府と密接な関係を築くことや、派手な広告宣伝によって営業力を強化することに専念する。
需給両面が共に急拡大するといった恵まれた環境の中、こうしたビジネスモデルがうまくいき、同社は2000年代後半から2010年代にかけて急成長を遂げたのだが、不動産購入制限など不動産対策が2017年から強化されると、事業環境が一変した。しかし、その影響を過小評価し、見誤り、超拡大戦略からの撤退が遅れたところに、前述の三条紅線政策が実施され、一気に危機が表面化した。さらに、2020年1月から約3年にわたる新型コロナウイルスの感染拡大、ゼロコロナ政策の実施が“弱り目に祟り目”となった。
営業強化とも密接に関係していた部分もあるが、サッカーチームを持ったり、ミネラルウォーター事業、電気自動車製造、メディア事業に参入したりするなど、事業の多極化を積極的に進めてきた。営業面への一定の効果はあったかもしれないが、巨額な投資を続ける中で、それらの事業は巨額な赤字を垂れ流し続け、危機が表面化すると、それらはすぐに財務面での大きな負担となった。
許家印CEOの関心は派手に事業を拡大させることばかりに集中していた。そのため細かい部分、たとえば仕入れる土地の良し悪しや適正価格の評価が甘く、知名度向上にばかりに目が向き、多角化事業に関して適正な投資規模、収益見通しができていなかった。さらに、顧客のニーズ、市場の動向、政策の方向性、強度について、しっかりと把握できていなかった。