5年に1度ある2024年の年金財政検証とそれに伴う年金制度改正に向けた議論が進められている。7月28日に開かれた厚生労働省の社会保障審議会年金部会では「遺族厚生年金」の制度改正が俎上に載せられた。夫や妻の死後に、残された配偶者が受け取る公的年金には「男女差」があるのだが、その解消が議論の対象となった。これまでは「残された夫」よりも「残された妻」に手厚い給付があったが、その仕組みがどう変わろうとしているのか。
「配偶者が死んだ後の年金」を巡る議論について、厚労省関係者はこう話す。
「次の年金改正の焦点のひとつが“男女差の見直し”です。これまでの『遺族厚生年金』は、“夫が家計の担い手”という考えから夫を亡くした妻の給付が手厚くなっていましたが、男女共に仕事に就くことが一般的になってきた社会状況を踏まえ、それを見直そうという議論が進められています」
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」がある。「遺族基礎年金」は、自営業など国民年金に加入している人に生計を維持されていた遺族(子のいる配偶者、または子)が受け取れるもので、子供が18歳になった年度末を過ぎると受け取れなくなる。
一方の「遺族厚生年金」は、会社員や公務員など厚生年金に加入していた人に生計を維持されていた遺族が受け取れるものだ。受給対象者には優先順位があり、「妻」が最も高くて一生涯受け取れる(子供がいない30歳未満の妻の場合は5年間の有期年金)。2014年から遺族基礎年金の男女差は解消されたが、遺族厚生年金のほうは受給要件に男女差が残っている状況だ。ブレイン社会保険労務士法人代表で社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「現行制度は、男性が先に亡くなるということをほぼ前提にしたような組み立てになっています。別掲の年金部会の資料にある通り、子がいない夫婦で妻が先に亡くなると、遺族厚生年金をもらえるのは妻の死亡時に55歳以上の夫だけ。これに対して妻は夫の30歳未満の場合は5年で失権するが、30歳以上なら年齢制限はなく終身受給できる。
また、女性だけを対象とする『中高齢寡婦加算』という遺族厚生年金の加算給付もあります。子供がいない妻には遺族基礎年金が支給されないし、子供がいても18歳到達年度の末日を過ぎると受け取れなくなる。そこで、中高齢で就労が困難な寡婦に重点的給付する制度です。40歳以上になると遺族基礎年金の代わりに65歳になるまで遺族基礎年金の4分の3、年59万6300円が加算される。さらに65歳からは経過的寡婦加算がある。女性のみ圧倒的に優遇されているわけですが、こうした男女差を社会の変化に合わせて見直そうという動きが出ているのです」