男女の賃金格差の解消が先ではないか
では「男女差の解消」とはどのようなものになるのか。優遇されている女性の側に揃えるのか、受給要件が厳しい男性の側に揃えていくのか。前出・北村氏はこうみる。
「女性の社会進出がより進んでいくということを前提に考えると、妻だけが優遇されているのをカットする方向になるのではないか。たとえば中高年寡婦加算を廃止したり縮小したりする案があり得るでしょう」
実質的な給付カットの方向性になるとみられているわけだが、それに向けては課題も残る。全国紙経済部記者が言う。
「日本でも働く女性は増えたが、賃金については依然として男女格差が残っている。厚労省の賃金構造基本統計調査では、2022年の男性の所定内給与を100とした場合、女性の正社員・正職員で78.2、一般労働者は75.7という水準に留まっている。しかも、男性雇用者の8割が正社員なのに対し、女性雇用者の5割が非正規社員という状況があります」
この状況下で遺族厚生年金の男女差をなくせば、夫を亡くした妻が生活に困窮する可能性は高い。前出・北村氏はこう続ける。
「さすが年金部会の議論のなかでも、男女の賃金格差があるので早急な制度変更は難しいという意見が出ています。10~20年かけて変えていくことになるのではないか。同性婚カップルの要件をどうするかといった課題も出てきています。
亡くなった人に生計を維持されていたと認められるには年収850万円未満という要件がありますが、これにも問題があります。たまたま夫が亡くなった時に妻の年収が850万円以上になると、その時点で受給要件を満たしていないと判断されてしまい、将来的に収入が減っても受給できない。こうした相談を何度も受けたことがある。5年以内に年収が下がることが明らかなケースとして認定されることもあるが、なかなか難しいのが現実です」
夫や妻が亡くなった後の年金の仕組みがどう変わっていくのか、議論の行方を注視する必要がある。(了)