「なぜ、三木谷社長がウクライナに?」──今なお戦火のなかにあるウクライナを外務大臣とともに電撃訪問した楽天・三木谷浩史社長(58)。その目的は何だったのか──。『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』を上梓したジャーナリスト・大西康之氏が同行取材。現地で見た三木谷氏の姿をレポートする。(文中一部敬称略)
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「海賊船に乗りませんか」。9月7日木曜日、午後10時過ぎ、筆者のスマホに楽天会長兼社長の三木谷浩史からSNSの「バイバー」でメッセージが届いた。
「明日、7時半に羽田のプライベートターミナル」
行き先も用件も分からない。“最後の海賊”である三木谷からの誘いは、いつもこんな感じだ。乗船の誘いを受けて断るわけにはいかない。10年を超える付き合いの中で、この誘いの先には、とてつもない冒険が待っていることを筆者は身をもって知っているからだ。
こちらの予定を調整し、すぐに返信した。
「行きます」
「Okay」
7時15分、羽田空港に到着。プライベートターミナルのラウンジに入ると、パーカーを羽織り野球帽を被った三木谷が忙しなく、スマホでメッセージを打っていた。
「行き先はどこなんですか?」
周りにいたスタッフに尋ねると、彼は声をひそめてこう言った。
「土曜日まで絶対口外しないでください。ポーランドです」
「ポーランド?」
「三木谷はそこから林大臣(林芳正・外相=当時)に同行して列車でキーウに向かいます。ウクライナ入りする日時やルートはセキュリティに関わる情報なので、絶対に外部に公表されては困ります」
海賊は、戦火のキーウに乗り込むのだ。
羽田空港のプライベートターミナルでは整備と給油を終えた三木谷のプライベートジェットが待ち構えている。三木谷が「海賊船」と呼んだのはこの飛行機である。筆者は勝手に「フライングメリー号」と呼んでいる。
1997年から『週刊少年ジャンプ』で連載を開始し、2022年8月時点で世界の発行部数が5億1000万部を突破。8月にはNetflixで実写版が公開された人気マンガ『ONE PIECE(ワンピース)』の主人公・ルフィが乗る海賊船「ゴーイングメリー号」からの着想だ。三木谷はこの漫画の愛読者である。