2020年に「第4の携帯キャリア」として新規参入した楽天グループ。最近は連日のように苦境が報じられているが、楽天と三木谷浩史社長は本当に“経営危機”に陥っているのか。実は今、楽天モバイルは再び「契約者増」に転じている。反転攻勢に出られた理由とは――。『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』を上梓したジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。【前後編の後編、前編から読む】
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KDDIとの有利な「交渉」
楽天モバイルにとって最大の変化は、6月にKDDIと結んだ「新ローミング契約」だ。新たな契約では前回の制約が外され、KDDI回線も「データ量無制限」になった。並行して楽天モバイルは利用者から「つながりにくい」と指摘される場所で基地局の建設を急いでいる。新ローミング契約と基地局の増加により、「この秋からは、つながりにくさがかなり解消されるはず」(楽天関係者)。
敵に塩を送る契約になぜKDDIが応じたのか。それはKDDIにとってローミング収入が貴重な財源だからだ。当初の計画では契約打ち切りで、2024年3月期のKDDIの決算は600億円の減収になるところだった。
楽天モバイルによる「価格破壊」で通信料の収入が減るなか、ローミング収入まで激減したのでは厳しい決算になる。このため楽天モバイルに有利な条件で新ローミング契約を結ばざるを得なかったと見られている。
楽天モバイルにはもう一つ、追い風がある。9月以降に総務省が楽天モバイルにもプラチナバンドの割り当てを決めることが確定的なのだ。
「プラチナと言っても与えられる帯域が狭いので、3メガ(キャリア)ほど使い勝手は良くない」との指摘もあるが、楽天モバイル側は「帯域が狭くても契約者数1000万件程度までなら余裕で捌ける。プラチナバンドの獲得でサービスの質は大幅に向上する」と説明している。
新ローミング契約とプラチナバンド獲得により、この秋以降、楽天モバイルの「つながりにくい問題」は大幅に改善される可能性が高い。「つながらない問題」があったため、楽天モバイルはここしばらく、派手な販促キャンペーンを控えてきた。
だが、「つながる体制」が整えば、「楽天市場や楽天ポイントと連動したキャンペーンを大々的に打てるようになる」(楽天モバイル関係者)という。