「ウクライナへ行く目的はモバイル技術の売り込みですか」
仕事が途切れた瞬間にすかさず質問する。
「それもあるけど、日本企業のトップはまだ誰もウクライナに行ってないらしいんだよね。だったら俺が行って、日本企業もウクライナを支援してますよ、と伝えたい」
「キーウにはロシアからミサイルが飛んできますよね」
「大統領府は大丈夫でしょ。移動の時はちょっと危ないかもしれない。知り合いの副首相が空襲アラートのアプリを教えてくれたから、スマホに入れておいた」
「ポーランドからはどうやってウクライナに入るんですか」
「寝台列車」
「へえ」
そんな話をしている間にメリー号は離陸を終え、水平飛行に入った。
「じゃあ、ちょっと寝てくる」
三木谷は後部座席を仕切って作ったベッドルームに入って行った。
日本のスマホは使えない
ウクライナとの国境に近いジェシュフの空港に着いたのは現地時間の午後6時頃。係員がパスポートをチェックし、これで入国手続きは完了。空港で待ち構えていた黒いワゴン車に乗り換え、鉄道の駅を目指して1時間半ほど高速道路を走る。
途中、我々を乗せたバンの後ろからけたたましいサイレンを鳴らしたパトカーが追ってきた。ドライバーが道を譲るとパトカーに先導された黒塗りのワゴン車とセダンの一群が追い越していった。
「(林)大臣だね」
三木谷がつぶやく。“国賓”の大臣は御付きと武装した護衛を従えて進むが、“海賊”はバン1台にドライバーを含めてスタッフ3人。
「随分違うもんですね」
筆者が言うと三木谷はニヤリと笑った。
「あれはあれで窮屈だと思うよ」