ジェシュフの駅は駅舎もなく、野原にプラットフォームが剥き出しだ。だがこの日だけはパトカーや黒塗りの車が何十台と集まり、物々しい雰囲気を漂わせている。
我々が到着すると外務省の職員が飛んできた。
「携帯電話をお預かりします。代わりにウクライナのSIMが入ったものをお渡ししますので、こちらをお使いください」
三木谷のスマホは当然、楽天モバイルで、国際ローミングサービスがあるからどの国でも使えるが、日本から持ってきたスマホを使うとロシア軍に特定され、現在位置を襲撃される恐れがある。サイバー込みの近代戦争が勃発している国に入るというのはそういうことだ。
午後10時頃、夜のしじまを破って、ジェシュフ駅のプラットフォームに寝台列車が滑り込んできた。今年3月、岸田文雄首相がポーランドからキーウに入った時と同じ列車だ。キーウの空港が使えない今、これが最も安全・確実なウクライナへの入国ルートだ。
実際に車両を目の前にすると、改めてそのオンボロぶりに驚く。
ジェシュフからキーウまでは約10時間。9時前には現地に着く。一行はまずロシア軍による虐殺があったとされるブチャを訪れて献花し、その後キーウに入るとクレバ外相、シュミハリ首相、ゼレンスキー大統領を次々と表敬訪問した。その合間を縫って、三木谷は個人的にも親交のあるフェドロフ・デジタル変革相と1時間近く話し合った。
フェドロフも「起業家」
首相主催の晩餐会が終わると一行は再び寝台列車に乗り、翌朝、ジェシュフ駅に戻ってきた。
車中二泊の強行スケジュール。帰りの列車の中で、三木谷のスマホは3度「空襲警報」のアラームを鳴らした。実際、この晩、キーウ上空にはロシア軍のドローンが32機襲来し、そのほとんどはウクライナ軍によって撃墜されたが、落下した機体の一部によって被害が出た。平和な日本では絶対に経験しない状況だ。さすがの三木谷もほとんど眠れなかったらしい。