「4000体以上の“ぬい”と4万冊近い蔵書は絶対に手放すことができません。いま住んでいる家は、ぬいと本と共に生きるための場所なんです」
作家の新井素子さん(63才)が1996年に夫婦で建てた一戸建ては、浴室や台所などを除くほぼすべての壁の上部にぬいぐるみを収容するための専用棚があり、1階には28畳(約46平米)の書庫がある。
新井さんが愛情を込めて“ぬい”と呼ぶ、ぬいぐるみに魅せられたのは幼稚園の頃。その後、高校2年生で小説家デビューするとファンや編集者、マスコミ関係者などから次々とプレゼントされて、ぬいは瞬く間に増えていった。
「ぬいは生きものだから感情があり、日によって表情が違います。しかも不死に近い生きものなので、捨てられるはずがありません。過去、虫に食われて中身がボロボロで修繕不可能になり、泣く泣く庭に埋葬したぬいが一体いますが、それ以外はみんなわが家で暮らしています」(新井さん・以下同)
「ぬいはぬいを呼ぶ」でどうしても数が増えてしまう
引っ越してきた当初はたっぷりスペースがあったぬいぐるみ棚だが、この二十数年で数が増えた故に棚にいるぬいの上にぬいを重ね、ぬいの前後にぬいを置く「密集状態」だ。これ以上増やしたくないが、ぬいぐるみ売り場で「目が合う」とつい購入してしまうという。
「愛好家の間では『ぬいはぬいを呼ぶ』は常識。どうしても数が増えてしまいます。加えてその年ごとの干支のぬいは棚から出して家の中に飾ることを習慣にしているため、棚から“民族大移動”させる必要もある。
大変だけど、そうやって共存していると思わぬところでぬいが助けてくれることもある。東日本大震災では、食器棚から床に落ちた食器の上に落下したぬいの大群がクッションになってくれたおかげで、私たちは食器を踏むことなく片付けができたし、階段の踊り場に並べていた大きめのぬいが、転んだ私を受け止めて守ってくれたこともあります」