インボイス(適格請求書)制度がスタートした直後の10月19日──。財務省主税局内に「納税環境整備に関する研究会」が発足した。
「各部署のDX(デジタル)担当者が集められた。メンバーの多くは30代の中堅で、税務手続きのデジタル化について有識者と意見交換する。会議の内容は非公開とされています」(財務省若手官僚)
財務省・国税庁はいま、スマホによる確定申告や電子納税など「税務のデジタル化」を急速に進めている。
国税庁が公表した「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像 2023-」によると、個人の給与支払いや年金などの収入から銀行口座の内容や生・損保の契約、支払った医療費、さらにクレジットカード情報などのデータを国税が一元的に収集し、AIを活用して申告漏れの可能性が高い納税者の判定を行なうとしている。国税庁がネットで簡単に税務調査を行なえるようにするのだ。
だが、財務省の狙いは別にある。税務デジタル化の最大の目的は消費税増税だ。
資産情報を把握できるシステム
あまり知られていないが、来年1月に改正電子帳簿保存法が施行され、パソコンで作成した経理帳簿やメールでやりとりした請求書、領収証などの取引記録をデータのまま保存することが全事業者に義務化される。それに合わせて、財務省は主税局でインボイス制度を設計した「消費税のプロ」と呼ばれる官僚をデジタル庁に出向させ、仕入れなど取引を電子化する「デジタル・インボイス」の普及を推進している。
主税局が研究会の第2回会合(10月30日)に提出した資料には、消費税に関する重要な一文があった。
〈取引のチェーンを把握していく上で一番相性が良い税目は消費税とされており、事業者にとっても、売上・コスト等を把握する観点でメリットがある。また、EUのように、将来的に消費税申告をリアルタイムで行うといった可能性も視野に入れて進めていくことが考えられる〉
税務デジタル化に詳しい税理士がその意味を読み解いてみせた。
「デジタル・インボイスが普及すれば、請求書から決済、経理処理や税務申告、課税までリアルタイムで行なわれるし、その過程ごとにAIにチェックさせることで不自然な取引があれば瞬時にわかる。この税務インフラが整備されれば、主税局の官僚がパソコンに入力するだけで、消費税の税率を上げるのも、商品によって税率を細かく変えるのも、簡単に行なえるようになります」
財務省がインボイス導入を強引に進めたのは、やはり消費税増税の布石だったのだ。