値上げラッシュに先の見えない年金制度、ささやかれる増税計画と、あらゆる角度からあおられ続ける老後のお金の不安。だがその不安に駆られるまま、間違った方法で老後資金のやりくりをしている人もいるだろう。専門家のアドバイスのもと、何が正解なのか、解説する。
退職金を増やそうとハイリスクな商品に手を出して痛い目にあったというケースはままある。運用して「増やそうとすること」に問題があることは事実だが、「使わないこと」もまた違うリスクを孕んでいる。
埼玉県の会社員・Aさん(46才)が話す。
「父は公的年金の3割を必ず貯蓄すると決めてせっせと貯金しているのですが、もう70代半ば。いったいいつ使うつもりなんでしょう」
Aさんの父のように、老後資金をただ貯め込むのはもったいないだけではなく、お金を失うリスクもある。定期預金の金利が0.002%で超円安のいま、ただ銀行に預けているだけではその価値は目減りする。だからといって自宅でたんす預金していても、災害や盗難に遭えば、丸ごと失う可能性もある。
三菱UFJ信託銀行の調査では、亡くなったときに残っている財産の中央値は1600万円で、そのうち約4割が現金とされる。つまり現金だけで約640万円もの「使い残し」があるということだ。
日本人の平均寿命である女性87.09才、男性81.05才で考えると、一般的に公的年金の受給を開始する65才から、女性は約22年間、男性でも約16年間も、お金を使うのをがまんして暮らすのが正しいとは言いがたい。ファイナンシャルプランナーの藤川太さんが語る。
「いまは90才まで生きる人は少なくありませんが、亡くなる直前まで元気で、自由にお金を使える人はまれでしょう。何才まで生きるかという命の寿命よりも、何才まで元気でいるかという健康寿命の方が大切です。
加えて、目的あっての貯蓄ならともかく、不必要に資産を残すことは、相続争いの火種など、新たな問題を生みかねません」