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遺言書が逆効果になる場合も 相続を争族にしないために司法書士が「家族信託」を勧める深い理由

「法定相続分は認められた権利ですから、裁判を起こせば、確実にもらうことができます。ただ、そうなったとき、きょうだい関係はもはや成り立ちません。でも、弟にしてみたら、十数年兄貴とは交流がなかったし、縁が切れても別に問題ない。それより、『もらえるものはもらっておこう』という考えになるわけです。こうした話は決して珍しくはないんです」

 では、相続でもめないためにはどうしたらいいのか。相続トラブル回避には「遺言書が効果的」といわれるが、上木さんは「必ずしも遺言書でなくてもいい」という。むしろ、遺言書を残したために、トラブルの火種になってしまうこともあるのだそう。

「遺言は、“今”の感情で書かれますよね。でも、その家族に対する感情は、誤解や行き違いで何か絆がほつれたり、絡まっていたりする可能性もあります。まずは、それらをちゃんと“棚卸し”をして、解きほぐしておくことが最初です。そのうえで、必要であれば遺言書を残せばいいと思います」

感情のもつれは、お金では解決できない

 たとえば、上木さんが1年近く関わったある案件。父親が亡くなって、相続の話し合いをするのに、実家と疎遠になっていた妹がとにかく、「お母さんとお兄ちゃんの言うことは信用ならない!」の一点張り。法定相続分で遺産を分けるというシンプルな話にも、聞く耳を持たなかったのという。

「その妹さんのところに通って話をしたり、メールで何度もやりとりをしたり、とにかく、お話を聴き続けました。紐解いてみると、妹さんには離婚歴があり、そのとき、『お母さんもお兄ちゃんも助けてくれなかった』と恨んでいたんです。そのときの遺恨が尾を引いていたのですが、じつはそれも行き違いがあっただけで。誤解を解いていくと、妹さんも納得してくれて、裁判を避けることができました」

 そのほか、長女の子の教育資金を援助したことに、次女が激怒。不公平だと怒っているのかと思いきや、「私だって子どもが欲しかった」という感情的な怒りだった、といったこともあったそう。

「子どもや孫のために良かれと思って残したもので、絶縁にまでなるのはつらいことです。亡くなった親御さんはこんなことは望んでいなかっただろうに、と感じることはよくあります」

「私に何かあったとき、財産の管理はお前に任せる」という契約

 相続を争族にしないためには、なるべく早く、「両親が70歳」、あるいは「リタイア」を目安に、「みんなで話し合いをして、家族の現状を把握することです」と上木さん。

「所有している財産の詳細はもちろんですが、これまでの家族の関係性、思いや歴史を含めて“家族の棚卸し”をするのです。そのうえで、親が年老いていくこの先、どうしていくのかを家族で話し合ってください。そこから、どういう形が自分にとってよいのか、自分たちの家族にとってよいのかを決めていくのです」

 そして、その話し合いの絶好のきっかけとなるのが、「家族信託」なのだと上木さんはいう。

 家族信託は財産の所有権を、「財産から利益を受ける権利」と「財産を管理・運用・処分できる権利」とに分け、「財産を管理・運用・処分できる権利」を一人の家族(受託者)に託す契約のこと。

「簡単にいってしまえば、親が『私に何かあったとき、財産の管理はお前に任せる』と、1人の子と契約することです。この契約を結んでおけば、のちに、たとえば親が認知症になったとしても、預金管理や振込、株の売買、不動産に関する契約なども、受任者となった子どもの判断で行うことができます」

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