「死んだら、コレをお前にやる」など、友人や知人と生前に結んだ約束。だが、遺族がその約束を受け入れてくれるかどうかは別問題。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
友人が急逝、悲しみと同時に、気に病んでいるのは彼の腕時計です。譲ってほしいと懇願していると、パーティで“死んだら、もってけ”という言質を取りました。証人はその場にいた他の友人たち。しかし、遺族が譲るのに難色を示すことも考えられ、その場合は譲渡に関する書面がないと難しいですか。
【回答】
友人の“死んだら、もってけ”との申し出は、死亡時に腕時計を、あなたにあげるという意思表示です。
あなたが、その申し出を承諾したのであれば、そのパーティで「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与」、すなわち死因贈与が成立したことになります。
死因贈与は贈与契約の一種ですが、口頭の合意によっても成立します。口頭合意は証明が難しいのですが、パーティの同席者が証言してくれるのが強みです。
しかし、通常の贈与の場合、民法では「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる」と定めています。契約は口頭で成立可能ですが、贈与は見返りなしに財産を他人に渡すことから、合意の有無を巡って争いになりやすいため、合意を証明する客観的証拠として書面が効果的であることと、軽率に贈与するのを防止する狙いで書面が必要とされているのです。一旦贈与が実行されれば、もはやその効力を争うことはできませんが、それまでなら、いつでも解除できるとされています。