リタイア後の住まいをめぐっては、「子供たちとの距離」という要素が絡んでくることがある。歳を重ねると子供が「心配だから一緒に暮らそうよ」などと提案してくることもあるが、慎重に判断しなくてはならない。
長男の家から徒歩数分の場所に妻とともに引っ越した70代男性は、「近すぎるがゆえに長男家族との関係がギクシャクしている」と言う。
「妻が長男の嫁としょっちゅう近所のスーパーで遭遇するのですが、嫁はサッと目を伏せて挨拶もしないらしいんです。そのくせ、保育園まで孫を迎えに行ってくれ、ご飯を食べさせてくれと要求が多いので困ります」
親子で同居する場合はさらに“嫁姑関係”が修復不能なほどにこじれたり、生活時間が合わなかったりすることで、お互いにストレスの溜まる状態に陥るリスクが懸念されるという。
住宅ジャーナリストの山本久美子氏は「生活スタイルや価値観の異なる家族が近すぎる距離で暮らすのは難しい」としたうえでこう語る。
「自分たち夫婦が歳を重ねて少しずつ生活に不安を抱えるようになると、子供たちに頼りたくもなりますし、実際に遠方だと何かあった時の不便もある。ただ、徒歩数分圏内といった近すぎる距離感だと軋轢が生まれやすい。お互いの家を電車で30分くらいで行き来できるエリアでの“近居”をお勧めします」
むしろ、“スープが冷める”くらいの距離感がちょうどいいという指摘である。