著名人は、医療費の負担とどう向き合っているのか? 野球評論家の江本孟紀さん(76)は、2017年に「スキルス性胃がん」が見つかり、全摘手術を受けた。
「お金のことは事務所にすべて任せているから」と語る江本氏。手続きなどを担う事務所のスタッフに聞くと、治療費の支払いは「限度額適用認定証」を活用したと説明する。
「がん保険などに入っていなかったので、何もしないと検査や入院の費用の3割が出費になります。高額療養費制度は適用されるのですが、超過分が支給されるまで3か月程度かかり、一度は窓口で全額を立て替えなければいけません。それが、あらかじめ健康保険に申請して認定証をもらっておくと、窓口では上限額までの支払いで済むと知ったんです。負担額は変わらないがまとまったお金が必要なく、これはありがたい仕組みでした」
江本さんは、たまたま病院窓口の担当者から「申請したほうが得」と教えられて恩恵に浴したというが、公的制度の存在を知っておくことが大切になるわけだ。
3か月に1回、5万円の負担が続く
江本さんはスキルス性胃がんだけでなく、2010年に網膜中心の黄斑部にむくみや出血をきたし、視力が低下する「加齢黄斑変性」という目の病気も患っている。現在も3か月に1回程度、病気の原因物質の増殖を抑える薬を直接目に注射する治療を続けているという。前出のスタッフが話す。
「江本は後期高齢者ですが、注射1回の自己負担は3割、約5万円かかります。しかも注射そのものは病気の進行を遅らせるだけだから、今後もずっと続けないといけないんです」
ちなみに、注射1回の費用では高額療養費制度の限度額を下回るため、適用されず還付はない。この注射は民間の医療保険の対象にもあたらないという。
「3か月に1回とはいえ、5万円の負担が続くのは大変です。症状が悪化すれば、注射の頻度を増やす必要があるそうです。お金が尽きたら注射が打てなくなると江本も心配しています」という当事者の声は切実だ。
※週刊ポスト2024年1月26日号