中学時代、受験勉強に苦労した世代にとっては、にわかに信じがたい話かもしれないが、少子化の影響は教育の在り方を完全に転換させるほど大きくなっている。
大学入試ではAO入試など一般入試以外の選択肢が増えており、それをクリアしようとすれば、従来の受験勉強では対応できないだろう。ペーパー入試の突破を材料に脅して勉強させるのと違い、そうした新しい教育は手間もコストもかかる。少子化で生徒集めに苦心する高校側も、「どんな教育を提供するか」がこれまで以上に競争のポイントになると認識している。
無償化は教育の「多様性や質」を損なう恐れも
そうしたなか、生徒の自己負担を一切なくし「就学支援金の上限(63万円)を超える分は学校が負担する」方針の大阪府では、私学側から「独自教育のための費用を捻出できない」「教員の待遇面を見直さざるを得なくなる」といった反発が起きた。
「授業料の無償化は私が先鞭をつけましたが、今回の東京都と大阪府の動きについては、多少、批判的に見ています。教育政策というのは、『アクセス』『クオリティ』『コスト』というAQCのバランスが重要で、この3つはトレードオフの関係にあります。誰もが質の高い教育を受けられるようにすればコストがかかり、コストを下げれば質やアクセスが下がる。
大阪の場合は、政治的にインパクトの強い“完全無償化”を実現しようとしているため、私立の教育にかける総投資額が減り、私立が担っていた多様性や質の高い教育の維持、そうした質の高い多様な教育へのアクセスが損なわれる懸念があります。
東京の場合は、将来的には、高所得層も無償化の対象にするのは間違っていませんが、優先順位が違うと思います。今そこにかけるお金があるなら、まず統廃合が進み、毎年のように入学定員割れが顕著な都立高校や、質や多様性を高める改革に励む私立高校に投資すべきです」(鈴木氏)