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経済評論家・山崎元さんが息子に送った最後の手紙「貴君はこれからどうしたらいいのか」「親孝行は、18歳の時点でもう十分に済んでいる」

息子へのメッセージを残していた山崎元さん(享年65)

息子へのメッセージを残していた山崎元さん(享年65)

 自らの命が幾ばくもないと知ったとき、人は愛する者たちへどのような言葉を遺すことができるだろうか──。庶民や一般投資家にも分かりやすい資産運用術などで知られ、今年1月1日にがんで他界した経済評論家の山崎元さん(享年65)。2022年8月に食道がんの告知を受け、手術等との闘病を続けるも翌年の春に再発。余命3カ月を宣告された山崎さんが、やっておきたかったことのひとつとして書き下ろした『経済評論家の父から息子への手紙』(Gakken、2月15日発売)。

 これから社会へと羽ばたいていく若者世代に向け、「働き方」「増やし方」「生き方」のアドバイスを経済評論家ならではの視点でまとめた本書。最後の一冊を執筆するきっかけとなったのは、大学への入学を目前に控えるとともに、遠くない未来に父を亡くす当時18歳の息子への「手紙」だった。

 実際に山崎さんが息子へ送り、本書にも収録されている手紙「大人になった息子へ」の一部を抜粋して紹介。愛する息子の幸せを願って遺した言葉は、同世代の子供を育て見守る多くの親にとっても、「伝え、残すべきもの」の参考となるはずだ。【前後編の前編。後編を読む

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 父親として、貴君の子育てについて考えていることを記しておく。

 率直に言って、私は「自分のような息子」が欲しかった。息子が生まれて大いに喜んだ。平凡だが事実だ。

 自分の息子に対して是非やってみたかったのは、余計なプレッシャーを与えずに育ててみることだった。子供の方では「プレッシャーはきつかった」と思っていたかも知れないけれども、父親側ではそう思っていた。ここは、認識にギャップがあるかも知れないが、まあ聞いて欲しい。

 私は子供時代に、愛情が深いけれども厳しい母親の「愛と脅しの日々」の下に育った。そのおかげで頭が働くようになった面もあるし、対人的観察力が養われた面もある。しかし、物事の見方が悲観的で、自己肯定感が低く、自分にも他人にも厳しい嫌な性格に育った。もう少しおおらかに育つとどうだったのだろう、と思わなくもない。私が東大に入ったのは、母親から離れて暮らすことが大きな目的の一つだった。

 男の子にとって、早くから母親から離れて暮らすことは有益だ。母親の物の見方の外に出ることが大事だからだ。経済的な効率は悪いけれども、貴君に是非とも一人暮らしをさせたいのは、貴君に対する私の最後の教育方針だ。現在の貴君にはこの方針を適用する価値がある。何年か早く名実共に大人になるはずだ。このアドバンテージは大きい。

 因みに、私の父親はかつて教師だったこともあり、息子に対して大変よく関わったと思う。息子の興味の先を見逃さずにあれこれを与えたし、キャッチボールも自転車乗りも気長に指導してくれた。彼なりの思想や哲学を、頭のいい批判的な息子に対して背伸びをしながらも語ってもくれた。私は彼が32歳の時の子供なので、富士彦さん(注:著者の父親)には体力が十分あった。教職を通じて培った子育てへの思いが丁度いい程度にあった。正直に比較するとして、父親としての息子に対する貢献では、私は私の父に遥かに及ばない。父親としての私の点数は高くない。

 それでも、少しは「男の子の父親」らしいことをさせてもらった。それらしい気分を味わえた。この点は大いに感謝している。

 既に10年前にすっかり肩がへたっていたのは誤算だったけれども息子とキャッチボールができた。自転車乗りを手伝ったし、サッカーに至っては教えられることが何もなくてボールを目の前に呆然とする経験もあった。卓球も少しやったか。将棋が共通の趣味になったのは、望外の幸運だった。金玉の医者にも同行した。これも父親の仕事だった。

 一方、勉強は教えてやれなかったし、勉強を教えることを意図的に遠慮した。自分の子供に上手く教えられる自信は全くなかったし、きっと逆効果になると思ったからだ。これは、分かってくれていたと思う。

 貴君の勉強については、電車のような興味のある対象を見つけてあれこれを覚えるようになったことで、先ず一安心した。次に、コンスタントな努力ができて最後に一伸びして本番に強かった中学入試でもう一安心した。その後は、期待通りの路線を期待以上に伸びてくれた。貴君自身に底力がある。

 受験勉強は辛かっただろうか。もっと別の分野に時間と努力を投入したかっただろうか。端的に言って、経済的なコストパフォーマンスは、貴君の場合勉強が一番有利だったと思う。世間一般でもそうした場合は多い。

 競争が世界的になっていることを思うと、もう一段階他人に差を付けるための追加的勉強は、これまでの時間と努力の投資を活かす「有効な投資」になるはずだ。興味のない分野は努力の効率が悪いので、興味のあるテーマを見つけて勉強するといい。

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