「マンションで掃除をしてると決まったところだけをやりがちですが、目立ちにくいところに汚れが残っています。例えばエレベーターのドアとドアの隙間に結構ほこりが溜まってるんですね。あと窓の桟(さん)とか。それと雨水が垂れてくるところの汚れがひどいんです。雨が降ってきた時がチャンスなんで、目についたところを全部きれいにするようにしています。それが昔の小姑さんのような目線かなと思いました」
管理員の仕事を「居住者へのサービス業」と位置付けた下田会長。研修で強調するのは、まずあいさつだ。忙しく働いている途中でも住人が通りかかったら必ず立ち止まり、目を見て笑顔であいさつをする。掃除も、居住者が気持ちよく暮らすための作業ととらえ、モップの使い方などを実地に訓練する。
さらに業務上の連絡は、すべてスマホの専用アプリで管理している。管理員は契約時に全員が研修を受け、出退勤管理や業務報告、現場のトラブル報告などをすべてアプリでこなしている。高齢者はスマホが苦手というイメージがあるが、研修で丁寧に教わることもあって、意外にそこは気にならないようだ。
朝から夕方まで長丁場の研修が終わると、1000人超の参加者全員が大広間で一堂に会して懇親会が始まった。乾杯のあいさつに立ったのは、この仕事について10年になる佐藤智子さん(仮名)。だが壇上に立ったのに肝心の飲み物がない。すると下田会長が近づいて「佐藤さん」と声をかけながらさっと缶ビールを差し出した。これで無事、乾杯! 佐藤さんが働き始めた当時の面接担当者が下田会長で、以降10年来の“飲み友達”だという。75歳のベテラン“70代女子”として仕事をどうとらえているか聞いてみた。
「70、80と言わず100まで働きましょう」
「そうですね。マンションの居住者の半分は女性ですので、奥様が昼間お子様を連れて外出する時に、どうしても女性の管理員の方が奥様と話しやすいですよね。ある程度年齢を重ねていろんな経験を積んでくると、日常生活でいろいろお話ししやすい関係ができるのかな。女性の方が少し柔らかい感じなんでしょうね。だから子育てが終わるとか、そういうタイミングで女性がどんどんこの仕事に参加してきたらいいと思いますよ。うちの会長も『100まで元気に頑張りましょう』って言ってますしね」