昨今、老朽化マンションにおける「管理組合」の機能不全や、管理会社が離れてしまうことが社会問題化している。そうしたなか、企業の定年延長などによるマンション管理員なり手不足も深刻な課題だ。そうした人手不足解消のために、女性を積極活用するために動き出した企業も出現している。ジャーナリスト・相澤冬樹氏がレポートする。
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「一歩踏み出そう!70代女子!」
目を引くキャッチコピーの横で、制服に身を包んだ70代の女性が微笑んでいる。そんな社内報の表紙に思わず吸い寄せられた。「女子」は女性全般を指すこともあるが、どちらかというと若い世代のイメージだろう。それをあえて「70代」と組み合わせているのが秀逸だ。いったい何を「踏み出そう」と呼びかけているのか?
この社内報を作った株式会社「うぇるねす」は、全国各地のマンションに管理員を派遣している。ただし普通の管理会社のように個別のマンションと契約して管理員を常駐させるのではない。常駐の管理員が休暇や退職などで欠員が生じることがある。そこに代わりの管理員を派遣する代行事業を始めた。サービスの穴を埋める“すきま産業”の一種だろう。その要員として着目したのが「シニア層の活用」だ。
定年でそれまでの職場を離れた人をはじめ、主に高年齢層をターゲットに業務委託という形で要員を集めてきた。今では全国1万棟を超えるマンションに2500人以上の管理員を派遣。一人で複数のマンションを受け持つ。事業の拡張に伴い管理員はこの10年で6倍以上に急増した。平均年齢70歳、最高齢は90歳。“団塊世代”が現場の主力となっている。
管理員の仕事は「女性に向いている」
課題は、管理員の男女比が8対2と男性に偏っていることだ。定年後の男性からの応募が多かったこと、管理員は男性の仕事だと認識されがちなことが影響しているという。これを転換して女性の比率を増やすのが目標だ。それが「一歩踏み出そう!70代女子!」というキャッチコピーに表れている。
創業者の下田雅美会長は、多くの起業家を輩出している『リクルート』の出身。40代で関連のマンション管理会社の専務取締役に就任した。当時、管理員の仕事は「建物の管理」という考え方が主流だったが、住人が快適に暮らすための「サービス業」だととらえ、実現のため22年前に『うぇるねす』を立ち上げた。81歳の今も経営トップを務める。
「マンションって住まいじゃないですか。管理員はその住まいを維持する仕事でしょう。70代の女性は専業主婦として家を切り盛りしてきた方が多いですからね。だからこの仕事はむしろ女性に向いているんです。そもそも女性の方が長寿でしょ。年をとっても元気で、女子会だなんだと活発に活動している。その馬力を生かさないのは国全体としてもったいないじゃないですか」