離婚した夫婦が金銭関係で揉めることがあるように、婚姻届を提出していない“同性カップル”でも破局後にお金で揉めることもある。たとえば、生活費。一方が好意で負担していた生活費を相手に請求した場合、返す義務はあるのだろうか? 実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【質問】
娘は3年ほど彼氏と同棲していましたが、先日、別れることになりました。同棲中の生活費は折半でしたが、1年前から半年間、娘は体調を崩して休職。その間の生活費は彼が好意で出してくれました。しかし、「別れることになったので、半年分の生活費を返して」と言われました。好意で払ったものでも返さないといけませんか。(徳島県・58才・女性)
【回答】
「事実上の夫婦として内縁関係にあった」という前提で考えます。
内縁の夫婦には、すべてではありませんが、婚姻に関する民法の規定が適用されます。民法では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とされているので(752条)、夫婦は家庭に必要な生活費を婚姻費用として互いに扶助し合う義務があります。その婚姻費用については、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と定められています(760条)。
もともと2人とも働いて収入があったので生活費が折半になったのだと思います。娘さんは半年間休職して無収入になり、その間の婚姻費用の負担ができなかったことになります。病気休職による収入喪失というやむを得ない事情は、婚姻費用の分担を定める中で重要な要素として考慮されます。娘さんが無収入になった以上、扶助義務のある彼が生活費のすべてを負担するのは当然といえます。
そこで、生活費折半が2人の平常時の収入を前提とした事実上の処理であれば、その前提が崩れているので、彼が全部の生活費を支出したこともやむを得なかったことと納得してもらうしかありません。