この、「吹きこぼれ」は厄介です。お勉強を真面目にこなし、問題児的な行動を取ることもなく、大学に入るまでは特に問題を生じません。先生からも評価され、家族も安心しきっており、ノーマークなわけです。それが、大学入学後、沸騰したお湯のごとく、あっという間に吹きこぼれてしまいます。
その症状は様々で、受験勉強で極度に神経をすり減らしたためバーンアウトする(燃え尽きる)学生もいれば、就職活動でなかなか内定がとれずに自暴自棄になってしまう学生もいます。うまく就職できても社会人として全く活躍できずコースアウトするケースもあります。
たとえばエリートが集まる京都大学。「もっとも京大らしい」京大教授といわれる酒井敏さんは、『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書)のなかで「あまり問題のなさそうな明るくて積極的な学生でも、単に要領よく周囲から高い評価を得ているだけで、必ずしも自分の意志がはっきりしているわけではない」といいます。そして、そういった学生の方が「深刻な時限爆弾」かもしれない、という優等生問題を指摘されています。
現在進行形の「3年3割問題」
「吹きこぼれ」は、あとになって爆発的な問題を生じるのです。「3年3割問題」はまさに社会問題です。これは、大卒者の新入社員のうちの約3割が、入社後3年以内に辞めてしまっているという統計的傾向です。厚生労働省の報道発表資料によれば、なんとこの「3年3割」問題は、1987年から一貫して継続していることが分かります。「深刻な時限爆弾」は約40年間も爆発しっ放しなのです。
デジタルネイティブ世代と呼ばれ、アクセスできる情報の量と質も格段に向上したはずなのに、数々の大学改革施策が実行されてきたはずなのに、ミスマッチによる吹きこぼれはそこかしこで多発している、ということです。
ファスト・カレッジが輩出する人材がファスト・リタイアというのは皮肉です。大学教員のなかには、「社会で通用する力を身につけるため、学生に武器を授ける」と息巻く方もいらっしゃいますが、付け焼き刃という武器はいくら研いでも付け焼き刃に変わりはありません。一時的には即戦力になれても、その先に待ち受けているのは、即、戦力外です。