1952年、ロンドンに創立されたイギリスの自動車メーカー、ロータス・エンジニアリング社(以下、ロータス)。創業者はイギリスの天才エンジニアにしてカーデザイナー、さらにレーシングドライバーとしても知られるコリン・チャップマンだ。エンジン時代を独創的なアプローチや数々の技術革新によって駆け抜けてきたロータスが、「電動車専業メーカー」の道を歩むことを宣言。そのスタートとして発表したのがバッテリーEV(BEV)である「エレトレ」だ。シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。今回は自動車ライターの佐藤篤司氏がロータス・エレトレをレポートする。
ロータスの電動化は「エレトレ」から始まった
ロンドンで本格スタートする以前の1940~50年代、イギリスには「バックヤードビルダー」、つまりバックヤード(家の裏庭など)などで既存車の改良や、ハンドメイドでクルマを製造する小さなメーカーが数多くありました。莫大な資金がなくとも、個性豊かな技術者たちが知恵と情熱を力に、お金のかからない市販車を生み出していたのです。ロータスも、そんなバックヤード育ちのメーカーのひとつ。弱小ながらも、チャップマンの生み出すクルマは、多くのレースイベントで、名門メーカーのマシンに勝利するなど、名声を高めて行きました。
1950年代後半にはレーシングカーの他に、プロダクションモデルである「セブン」と「エリート」をリリースさせ、成功を収めます。それ以降、ロータスは様々なモデルを開発し「ヨーロッパ」やボンドカーとなった「エスプリ」、近年では「エヴォーラ」や「エリーゼ」など、革新的なデザインと高性能を備えたモデルで人気を博しています。同時にモータースポーツの世界でも、F1のコンストラクターとしての活躍を始めとした名声を得たこともあり、現在は世界有数のスポーツカーブランドとして認知されています。
そんなロータスというブランドを支え続けてきたのは、エンジンを搭載したモデルです。しかし、時代は電動化への流れにも対応することを求めてきました。するとロータスは一気に「近い将来には電気自動車専業メーカーへ転身すると」と宣言しました。一気呵成とも言える電動化シフトに対し、古くからのロータスファンやスポーツカー好きの間に、少なからず衝撃が走りました。
一方で「ロータスが電動化社会に対してどんな答えを用意するのか?」という興味も高まったのです。そこに登場したのが2022年3月にリリースされたBEVの「エレトレ」でした。HEV(ハイブリッド)でもPHEV(プラグインハイブリッド)でもなく、一気にBEVのスーパーSUVという出で立ちです。