厚生労働省の最新統計によると、離婚理由の男性の2位、女性の3位と上位にあるのが「精神的な虐待」、つまりモラハラで、近年、モラハラによる離婚は急増しているという。モラハラはなぜ起きるのか──『モラハラ夫と食洗機』を上梓した弁護士の堀井亜生さんと、脳科学者の中野信子さんがモラハラ夫の実態やモラハラの背景について語り合った。【全3回の第1回】
借金や浮気、暴力に比べて軽視されやすいモラハラ
堀井:私は弁護士として2000件以上の離婚・男女問題にかかわってきたのですが、数年前から、「パートナーからの精神的虐待で苦しんでいる」という、いわゆるモラハラの相談が増えてきました。テレビや雑誌などでモラハラについて発信していると、さらに相談が増えて、現在は男女問わずモラハラに関する相談が絶えません。
かつて離婚理由として多くを占めていたのは、パートナーの不倫、借金、暴力でした。でも、近年では不倫や暴力による離婚は減り、代わって増えているのが「モラハラ」なんです。特にコロナ禍に突入してから、「夫のモラハラで離婚したい」という相談が急増し、いまも増え続けています。
中野:それまで夫が出勤すれば一息つけていたのに、テレワークで四六時中家にいることで、逃げ場がなくなった妻も少なくないようですね。
堀井:借金や浮気、暴力に比べてモラハラは周囲から軽視されやすい。自治体の法律相談でも「モラハラでは離婚できない」と言われ、親には「それぐらい我慢しなさい」などとあしらわれることがあり、悩んでいる女性はたくさんいます。
でも、モラハラでも離婚はできる。それを伝えたくて、『モラハラ夫と食洗機』を書きました。
中野:モラハラは精神的DVです。肉体的には傷はつかないですが、脳は傷ついています。たとえば虐待を受けて育った子供は、脳の「前頭前野」という部分に交通事故に遭ったレベルのダメージを負うことがわかっています。
同様に、モラハラも脳に深刻なダメージを及ぼしている。そのことはもっと知られるべきです。