介護業界はかねてより人材確保が難しいとされてきたが、その状況がいよいよ深刻になってきた。厚生労働省は、団塊世代全体が後期高齢者となる2025年には32万人の介護人材が不足すると試算。“介護ヘルパーの高齢化”も急速に進んでおり、介護労働安定センターの「介護労働実態調査」によると、2022年度の介護労働者の平均年齢は50歳で、なかでも「訪問介護員」は54.7歳となっている。訪問介護の危機をリポートする。【前後編の後編。前編から読む】
訪問介護から手を引く経営者が増えている
深刻な人手不足に拍車をかけるのが、政府による介護報酬制度の大改悪だ。東京都三鷹市で訪問介護の事業所を運営する「NPO法人グレースケア機構」代表の柳本文貴氏はこう訴える。
「今年4月以降、訪問介護サービスの基本報酬が引き下げられました。厚労省は調査(令和5年度介護事業経営実態調査)の結果、介護関連サービスの利益率が平均プラス2.4%だったのに対し、訪問介護はプラス7.8%と高水準だったことを引き下げの根拠の一つとして説明していますが、現実を無視した理屈です。
介護サービスの収益は地域差によるところが大きく、実際はプラスどころかマイナスになる事業所が4割にも及ぶとされている。厚労省は、従業員の処遇を改善した場合に請求できる加算などで最終的にプラスにできるように制度設計したと言いますが、これもおかしい。可能な加算をすべて取得したと仮定して試算してみたところ、うちの事業所では年間の収支が前年度と比較して最終的に77万円の減収という結果でした」
介護業界では、介護保険法に基づく利用者への支給上限金額があるため、事業所の努力だけでは収益を改善しにくい構造がある。それが赤字ともなれば事業には大きな打撃となり、訪問介護サービスの提供を続けること自体が難しくなってくる。柳本氏は、すでに訪問介護から手を引く経営者が増えていると証言する。
「事業所の売り上げが下がれば、働きたいスタッフも減る。去年から今年にかけて、三鷹地域でも複数の事業所が閉じました。理由を尋ねると、『従業員が集まらない』との答えでした。事業所の閉鎖はさらに続くと思います。地域の利用者の方々に適切なサービスを受けてもらうことが難しくなると懸念しています」