親族に連絡して葬儀を行い、保険や各種サービスを解約し……「死後の手続き」に奔走する慌ただしい日々の最後の大仕事は、残された財産を受け継ぐこと──財産を巡って親族間で“争族”になることが問題になっている一方、いま、それを「放棄」する人が急激に増えている。
司法統計によれば、1989年に約4万件だった全国の家庭裁判所で受理された「相続放棄」の件数は、2022年には過去最多の26万497件。30年あまりで6倍以上に激増しているのだ。特にここ7年間の増加は著しく、1年に1万件ずつ増えている計算になる。『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』の著者で司法書士の椎葉基史さんが分析する。
「人口における高齢者の割合が上がったほか、コロナ禍もあって相続の発生に直接かかわる『死亡者数』も増え続けてはいますが、相続放棄件数はそれを圧倒的に上回るペースで増えています。さまざまな理由から“相続すると、かえって損になる”と考え、放棄することを選ぶ人が増えてきていると考えられます」
その背景は、放棄の理由から読み解くことができる。多いのは「亡くなった親に多額の借金があるから」というものだ。相続財産には、預貯金などの“プラスの財産”だけではなく、借金や保証人など“マイナスの財産”も含まれるため、被相続人の負債を背負いきれない場合に、相続を放棄することが多い。
「近年は負債だけでなく、『不動産』を理由にした相続放棄の相談が増えています。管理や解体の手間や費用を考えると、財産どころか事実上借金のようにしかならない“負動産”が増えているのです。
事実、以前は1軒100万~200万円程度だった解体費用はこの5年ほどで2倍以上に高騰しています。負動産はただでさえ“お荷物”なうえに、2015年から施行された空き家対策特別措置法によって相続した不動産を放置すると自治体から指導が入るほか、今年4月からは相続登記が義務化され、煩雑な手続きが必要なうえに怠れば10万円以下の過料が科せられる。安易に相続したくないと考え、放棄する人が増えているとも考えられます」(椎葉さん)