いま「相続」に異変が起きている。遺産分割協議や相続税の納付に苦労するよりも、全部まとめて「放棄」する人が増えているのだ。司法統計によれば、1989年に約4万件だった全国の家庭裁判所で受理された「相続放棄」の件数は、2022年には過去最多の26万497件。30年あまりで6倍以上に激増している。
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相続放棄の理由として多いのは「亡くなった親に多額の借金があるから」というものだ。相続財産には、預貯金などの“プラスの財産”だけではなく、借金や保証人など“マイナスの財産”も含まれるため、被相続人の負債を背負いきれない場合に、相続を放棄することが多い。
相続放棄にあたって留意すべきなのは、「預貯金は相続して、借金は放棄する」といった財産の“選り好み”はできず、すべての財産を放棄しなければいけないということ。大損しないためには、あらゆる状況を鑑みて、放棄すべきかどうか判断する必要がある。
個人でできる相続放棄の準備・手続き
いざ「相続放棄する」と決めたら、その準備や手続きは個人でもすぐにできる。
必要書類は「相続関係を証明できる被相続人の除籍謄本等戸籍一式」「被相続人の住民票の除籍謄本」「相続を放棄する人の戸籍謄本」のみ。裁判所のウエブサイトからダウンロードできる「相続の放棄の申述書」に記入し、被相続人の最後の居住地を管轄する家庭裁判所に提出するだけだ。その後は裁判所と「照会書」という書面でのやりとりを経て、問題がなければ受理される。『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』の著者で司法書士の椎葉基史さんが言う。
「受理されたら、家庭裁判所に証明書の発行を申請しましょう。負債がある場合は、それを債権者である銀行や消費者金融などに提示すれば、放棄した人に請求はこなくなります」(椎葉さん。以下同)