若者だけでなく、高齢者の貧困層も拡大している。年金制度が十分に機能していないため、高齢者の半数が受給している老齢年金の受給額は月平均で約62万ウォン(約7万1000円)にとどまり、さらにそのうちの半数は40万ウォン未満とも報じられている(2023年10月時点/KOREAWAVE・2月18日付)。生活が著しく苦しい人の割合を示す「相対的貧困率」は66歳以上が40.4%で、OECD加盟国中最も高い(2020年)。
貧しい高齢者は少しでも生活を楽にするために「地下鉄宅配」の仕事に従事している。高齢者福祉の一環で65歳以上の高齢者は無料で地下鉄に乗れるため、その制度を使って配達業務を請け負っているという。それほどまでに追い込まれているわけで、韓国は若者にとっても高齢者にとっても“絶望の国”なのだ。
国家的課題より「ネギの値段」?
さらに、経済では財閥系大手企業の中小企業いじめが横行している。日本の場合は大企業が外注や下請けの中小企業と協力してコストを削減したら、その成果を両者で分配する。
一方、韓国は財閥系企業が成果を独り占めする。私は韓国の中小企業連合の講演に何度か呼ばれているが、その時に中小企業の経営者たちと対話すると、いつも彼らは「コストを削減しても、財閥に値切られて搾り取られるだけです。日本の中小企業がうらやましい」と不公平な現状を嘆いていた。韓国で中小企業が全く育たない所以である。
それでも韓国政府は財閥系大手企業を優遇している。世界で活路を開けるのは財閥グループだけだからで、そのため韓国は日本やアメリカのような「財閥解体」ができないでいるのだ。
韓国の超少子化は、それらの要因が複合的に絡み合っている。したがって、合計特殊出生率を上げるためには、国家をつくり直すくらいにゼロベースで社会システムや産業構造、いわば価値観そのものを大変革しなければならないのだが、尹大統領にそこまでの全体構想があるとは思えない。