日本の場合は野党が要求した北欧型福祉社会を自民党が取り込んでバラ撒き政治を行ない、結果的に“日本型高度福祉社会”になった。しかし、韓国にはその役割を担う政党もない。
最大野党「共に民主党」や文在寅前政権で法相を務めた曹国氏が代表の左派系新党「祖国革新党」は、票を稼ぐための反日・親北路線で政府批判に終始し、社会構造の問題は全く政策論争のテーマになっていない。
その象徴が4月の総選挙だ。前述のような深刻な国家的課題があるのに、それは二の次で、尹大統領が長ネギの値段を知らなかったとか、金建希大統領夫人が在米韓国人の牧師から高級ブランドのバッグをもらったとか、下世話なことばかりが争点になった。結果、保守系与党「国民の力」は惨敗を喫し、「共に民主党」が単独で過半数を獲得。尹大統領は苦しい政権運営が続くことになった。
韓国は根本的な社会問題や慣習などを変えていくための議論が必要なのだが、軽佻浮薄な政治家たちにその認識はない。このままでは超少子化が加速し続け、日本と同様に国力は衰退の一途を辿るだろう。
一方、財閥系企業は世界で勝ち残るために脱母国(グローバル化)の道を突き進むだろうし、K-POPのHYBEなどの舞台も世界となり、母国の絶望的な将来像にはあまり捉われずに活躍していくと思われる。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年6月21日号