アケミさんの夫は嘱託社員で働いていたが、子供たちが両親の助けがなければ仕事と子育てが両立できないことを知り、自分が退職することを決意。アケミさんも同じ気持ちで、夫婦で「“孫ファースト”の生活に変えよう」と意見が一致したそうだ。夫は「今まで仕事ばかりだったので孫と関わることができて楽しい」と話す一方、アケミさんは様々な不安が頭をもたげてきたという。
「正直、老後のお金が心配です。働けるうちは働いて蓄えを増やしたいと考えていただけに、夫婦そろって退職を選んだのは正解だったのかと悩みは尽きません。子供たちは“保育料”として少しお金をくれると言ってくれましたが、これから孫たちの教育費などにお金が掛かることを思うと、受け取るのは躊躇してしまいます」
「孫育て」の悩みは友人にも言えない
贅沢は控え、スーパーの特売品を活用した生活を送っていると話すアケミさん。以前は友人と旅行にも出かけていたが、時間もお金も余裕がないので最近は誘いを断っているという。すると、異変に気付いた友人から思わぬ言葉をかけられてしまう。
「子供たちの家庭事情を話すと、『羨ましい悩みだわ』『孫がいるっていいわね』『うちの子も早く結婚してほしい』と言われてしまいました。私にとっては切実な悩みでも、人によっては羨ましいことだったようです。このことを子供たちに話すと、『子供や孫のことは自分から言わないほうがいい』と釘を刺されました……。
でも私からしたら老後の蓄えがしっかりとある友達のほうが羨ましい。もちろん孫は可愛いですが、カツカツな生活はしんどいのが本音。今が大変な時期であるのもわかっていますが、この先、孫育ての手が離れた時に働きたいと思っても、60歳をとうに過ぎた私や夫を雇用してくれるところがあるか不安です」
当初は子供たちからの報酬を断っていたアケミさんだったが、現在は受け取るようにしているという。「交通費とお昼代程度ですが、パートを辞めた今となっては負担なので助かります」と話していた。
就学前の保育条件とは預かり時間や夏休みなどの長期休暇中の対応が変わり、共働き家庭が直面する困難を「小1の壁」というが、「孫育て」をする祖父母が直面するケースもある。世の中が変化するなか、子育てに関する課題はそれぞれだろうが、どの選択をすれば自分や家族にとって豊かな生活が送れるのか、考える機会にしたい。
【プロフィール】
吉田みく(よしだ・みく)/埼玉県生まれ。大学では貧困や福祉などの社会問題を学び、現在はフリーライターとして人間関係に独自の視点で切り込んでいる。マネーポストWEBにてコラム「誰にだって言い分があります」を連載中。同連載をまとめた著書『誰にだって言い分があります』(小学館新書)が発売中。