従業員や職員向けに「孫育て休暇」を独自に設ける民間企業や自治体が増えている。取得条件や休める期間は様々だが、自治体では2023年1月に導入した宮城県をはじめ、神奈川県、岡山市、郡山市、桑名市などが導入している。幅広い世代による育児支援を目指すものだが、定年延長などにより60歳以降も働く祖父母が増えるなか、「孫育て」を理由に離職する人が多いことも、そうした施策の背景にあるようだ。「孫育て」のために仕事を辞めざるを得ないケースには、どんな事情があるのか。フリーライターの吉田みく氏が、孫の小学校入学を機に夫婦で離職したという60代女性に話を聞いた。
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保育園に預けた子供が急に熱を出して迎えに行かなければならなかったり、希望していた保育園や学童が定員いっぱいで入所できなかったり……。子育て中は予測できないことが多く、夫婦共働き世帯が増えているなか、父母だけで対応するのは厳しいことがある。誰かの助けが必要な場合はシッターなどのサービスを利用する人もいるが、割高な料金や予約の奪い合いなどで疲弊している人も多いと聞く。そんななか、気を遣わずに柔軟に対応してくれる親(祖父母)の存在は大きいだろう。
子育て中、祖父母が孫を見てくれるのは嬉しいことだが、時には「孫育て」が祖父母の人生をも大きく変えることもあるようだ。都内在住の専業主婦・アケミさん(仮名、63歳)が言う。
「私には30代の息子と娘がいます。それぞれ結婚していて子供が2人ずついて、全部で孫は4人。どちらの家庭も共働きで育てています。息子と娘の自宅まではどちらも電車や車で30分圏内なので、『お母さん、熱が出たから子供を見てくれない?』『習い事に連れて行ってくれないか』などと頼まれるのはしょっちゅうです。今まではなんとか私一人でやっていたのですが、孫たちのうち、二人が同時に小学校に入学したことで状況が一変しました」(アケミさん、以下同)
最近まで近所のスーパーで20年以上パート勤務をしていたアケミさんだったが、今年3
月に退職したという。その背景には、春から小学生になった二人の孫の世話があった。
「学童に入れる予定でしたが、小1の二人の孫のうち一人が待機児童となってしまいました。両親とも仕事で自宅に居ることができないため、放課後、小学生になったばかりの孫を一人で長時間自宅に置いておくのが心配で、私が平日午後は一緒に居ることにしたんです。
最近は小1から習い事も当たり前だそうで、もう一人の小1の孫の送り迎えも毎週頼まれています。小1の孫二人は住んでいる地域も違うため、私一人ではどうすることもできず、夫の力も借りなくてはいけなくなり……。子供たちは生活のために共働きをやめることはできないようで、私の時代の子育てとは状況が違いすぎることに戸惑うばかりです」