大阪の巨大工場が、思わぬかたちで注目を集めている。テレビ向け大型液晶パネル撤退と同時に操業停止が決まったシャープ堺工場。その敷地・建屋をめぐり、KDDIとソフトバンクが「AIデータセンター」として活用したいと名乗り出たのだ。
「データセンター」とは、インターネット用のサーバーやデータ通信などの装置を設置・運用することに特化した施設のことである。今回堺工場は、AI処理に対応できる大規模なAI計算基盤を持つ「AIデータセンター」が2社によって構築されることとなる。
通信事業者としてライバル関係にある2社と、シャープはそれぞれ提携を行なうと発表した。注目されるのはなぜか。経済ジャーナリストの大西康之氏が解説する。
「液晶工場として稼働させていた際に、頑丈な建屋と空調設備、安定的な電力供給や排水処理などのシステムを完備させていた。工場としてのインフラが整備されている点が良かったのでしょう」
シャープは同工場の約6割の土地や設備をソフトバンクに売却し、KDDIとはデータセンターを共同運営する見通しだ。2009年に約4000億円の巨費を投じて建てられた大工場は、多額の赤字を生み不首尾に終わった。大西氏はこう続ける。
「アクオスというブランドのためだけに、あれほど大きな工場は最初から必要なかったんです。技術は高いが、値段も高い。そんなパネルが欲しいというメーカーは少なくなっていた。そうしたなかで価格競争に敗れ、中国の企業に追い抜かれてしまった。結果的に堺工場は、液晶工場としての価値はないと判断された。今後、液晶製造の設備などが廃棄されたら倉庫として買われたも同然で“跡地利用”という状態になる。それでも、損切りの決断ができた点は評価できます。この決断は鴻海の経営陣でなければできないことでした」