大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

世界的株高の裏に潜む「大恐慌のリスク」 100年前の世界恐慌と酷似している今の状況と過去から学ぶべきこと

ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏

ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏

“外来株高”に浮かれている場合ではない

 100年前との違いは、世界の株価をつり上げているのが鉄道や石油など旧来の産業ではなく、国境を越えて展開するEコマースやAI向け半導体といった21世紀型産業である点だ。しかし、それらの産業が進む先にあるのは、やがてシンギュラリティ(AIが人類の知能を超える技術的特異点)を迎えて“人間の仕事がAIに奪われる世界”であることを忘れてはならない。人手不足のIT関連人材もAIに取って代わられたら、その後は100年前と同じく失業の山となるだろう。IT=失業という時代がすぐそこまで迫っているのだ。

 ここからさらに、ロシア・ウクライナやイスラエル・パレスチナでの戦争の長期化・拡大(第3次世界大戦の可能性も)、資源高や食料難が重なれば、インフレが再加速するかもしれない。

 また、11月のアメリカ大統領選挙の帰趨が株価暴落の引き金となる可能性もある。「自国ファースト」で保護主義的なトランプ前大統領が政権に返り咲けば、その政策が世界経済を混乱に陥れる懸念は拭えない。100年前に不況を呼び込んだ「ブロック経済【*】」と同じである。

【*注 ブロック経済/1930年代にイギリスやフランスなどの主要資本主義国が植民地・半植民地・同盟国などを統括して形成した排他的・閉鎖的経済体制。域外に対する高率関税、2国間の貿易協定、通貨・商品割当てなどによって、域外に需要が流出しないようにした】

 100年前の日本では、米騒動が起きるほど物価が高騰し、1920年には戦後恐慌が発生。関東大震災(1923年)、金融恐慌(1927年)、さらに世界恐慌から昭和恐慌へと続き、企業倒産や失業が急増した。銀行では預金者らによる取り付け騒ぎが起きてパニックとなった。

 当時に比べれば、預金保険制度や公的資金の注入などの施策で教訓を得ている部分もあるが、100年前のスペイン風邪流行後と同様に、アフターコロナの特需はもうなくなっている。日本でも、コロナ対策でバラ撒かれた補助金の恩恵はすでになく、逆に「ゼロゼロ融資(新型コロナウイルス禍で業績が悪化した企業を対象に実施された実質無利子・無担保の融資制度)」の返済が本格化するなどして企業倒産が増えたり、さらに景気が悪化したりする可能性がある。だがその時、政府のバラ撒き政策を支えてきた日銀の異次元金融緩和はもはや期待できない。大恐慌のリスクという現実を直視すれば、今の“外来株高”に浮かれている場合ではないのである。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2024年7月12日号

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