為替介入が難しい日本、自由にコントロールできる中国
日中の貿易構造、産業の国際競争力などを比較すれば、人民元が強くなる要素は多い。しかしこれは長期的な要因であり、足元の変化を説明する要因は別にありそうだ。人民元は対ドルで安定を保てているのに対して、円は対ドルで投機的な取引の影響を受け売られ過ぎている印象だ。その影響で円は対人民元レートでも弱いのではないかと考えている。
人民元は香港、シンガポール、ロンドンといったオフショア市場でも取引が行われているが、オンショア(本土)市場との相互のやり取りは厳しく管理され、制限されている。そのため、オフショア市場において投機的な動きが生じたとしても、本土市場にそれが伝播しない仕組みが出来上がっている。つまり、人民元為替レートは中国人民銀行や国内金融機関勢が支配的な力を持つ本土市場において、決定付けられるシステムが構築されている。ちなみに、中国人民銀行は法定デジタル通貨の導入を進めているが、デジタル通貨は違法な資金移動を限りなくゼロにすることができる。今後、このシステムはさらに強化される可能性がある。
本土市場における人民元と円との交換レートは現在、中国外貨取引センターにおいて、直接取引を通じて決定される。その点だけをみれば、変動相場制のようだが、中国人民銀行は取引が開始される時点で基準価格を設定、1日の変動幅をその上下2%以内に制限するといった仕組みがある。制限に達した場合は中国人民銀行が市場介入を行い、為替レートを変動幅内に抑えるといったシステムだ。
基準値については、「前日の終値+通貨バスケットによる調整+逆サイクル因子による調整」によって決められる。逆サイクル因子による調整といった項目が入ることで、投機的な動きによってレートが高いボラティリティを発生させているなどと当局が判断した場合、その動きを打ち消す側に基準値をシフトさせることができる。
日本では米国の(暗黙の)同意が得られない場合、自由な為替介入は政治的に困難なところがあるが、中国は他国への配慮を必要とせず、その上、実際に市場で資金を投じることなく、基準値を上げ下げする形で為替をコントロールすることができる。
金利上昇は日本銀行にとって大きな痛手に
日本の金融、為替制度は自由化が進んでいる。当局のコントロールが効きにくく、資金力のある欧米投機家に対抗する手段に乏しい。さらに、厳しい財政状況が長年続いていることから、日本銀行の財務体質が劣化しており、その点が大きな弱みとなっている。