2025年に控える5年に一度の年金改正に向けて、政府内の議論が活発化している。7月3日、厚生労働省は国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現行の40年から45年に延長する案を見送ると決定した。ひとまずは、加入者が5年延長による保険料負担増を突きつけられる事態は避けられたものの、専門家からは年金をめぐる「負担増、給付減」の流れは止まらないとの指摘も出ている。
国民年金の保険料支払期間を5年延長した場合、保険料は月額約1.7万円のため、5年間で約100万円の負担増になる。厚労省の社会保障審議会年金部会で議論が進められていたが、今回の見送りについて橋本泰宏年金局長は年金部会のメンバーを前に、負担増への批判が大きいため〈「法律案にまとめて国会で成立させられるのか見通しを持てない」と話した。/「残念ながら批判を一掃できているとはいえない。力不足をおわびしたい」と(中略)年金部会のメンバーに陳謝した〉(日経新聞電子版、7月3日付)などと報じられた。
高齢者の定義を「5歳延ばす」
ただ、これまで保険料を支払う必要のなかったパート労働者らに保険料負担が生じる厚生年金の適用要件拡大などは、引き続き議論が進められていく。年金財政が逼迫するなか、政府が“保険料をなるべく長く、多く取りたい”という姿勢であることは間違いなさそうだ。
また、年金給付をめぐっても、気になる議論がある。それが「高齢者の定義見直し」だ。発信源となったのは岸田文雄・首相が議長を務める経済財政諮問会議だ。関係閣僚や企業経営者、学識者らで経済や財政の重要事項について基本方針を審議する場だが、5月23日の同会議では〈新たな令和モデル〉のひとつとして、十倉雅和・経団連会長ら民間の有識者議員から「高齢者の健康寿命が延びる中で、高齢者の定義を5歳延ばすことを検討するべき」と提言された。全国紙経済部記者が言う。
「高齢者を定義付ける法律等はなく、WHO(世界保健機構)が65歳以上を高齢者としていることから、65歳で線引きされることが多い。年金受給開始の年齢も65歳だし、高年齢雇用安定法でも雇用の義務付けは65歳までになっている。高齢者に一律の定義がないのは、加齢に伴う身体や認知機能の変化に個人差があるためですが、政府側には高齢者の定義を都合よく変えたいという狙いがあるともされる」
経済財政諮問会議での「高齢者の定義を5歳延ばす」という提案を受けて、ネットでは「年金の支給開始を70歳にする布石では」とも騒がれた。そうした考え方に、現実味はあるのだろうか。