田代尚機のチャイナ・リサーチ

【最大手でも利益が出せない】中国の産業全体に広がる「生産能力過剰」問題、先進国の批判も改善は困難

ソーラーパネル最大手・隆基緑能科技(上海A株)の週足チャート

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国家が積極的に産業発展を促す構図

 直近のソーラーパネルの過剰生産は突出しているが、それ自体はクリーンエネルギーに限ったことではなく、また、新しい問題でもない。

 2010年以降の実質経済成長率をみると、当初は10%を超えており、その後下がってきてはいるが、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年は5.95%であった。その後、アップダウンを繰り返した後、2023年は5.2%、2024年4-6月期は前四半期比で0.3ポイント低下したとはいえ、それでも4.7%ある。

 グローバルで経済規模の大きな日米欧などの成長率と比べると、十分高い成長を実現させている一方で、この間一貫して生産過剰状態が続いている。

 2008年に発生したリーマンショック時に実施した大規模な需要拡大策の影響によって、2012年に深刻な過剰生産が発生した。中国国務院国資委研究センターが当時発表した試算によれば、鉄鋼で21%、自動車で12%、セメントで28%、電解アルミで35%、ステンレスで60%、農薬で60%、太陽光パネルで95%、ガラスで93%の生産能力の過剰があったようだ。

 問題は、基本的にその後も産業全体に広がる生産能力過剰が解消されていないという点だ。それについて、生産者物価指数上昇率の動きを以て調べてみると、2012年3月から2016年8月まで54か月間マイナスが続き、その後は一旦プラスを回復したものの、2019年7月から2020年12月の間、ほぼマイナス圏で推移した。その後、一旦回復したものの、2022年10月から再びマイナス圏に突入しており、2024年6月も0.8%下落と“デフレ基調”が続いている。

 中国では、国家が発展させたい産業を指定し、補助金の支給から、投資家、金融機関を巻き込んだ直接金融(ファンドの利用、上場支援など)、間接金融による資金供給に至るまで、生産能力の拡大を促している。「実体経済は“供給が需要を作り出す”」といった理屈を前提として、中国は成長に前のめりだ。

 習近平政権は現在、質の高い成長を目指しており、量的な成長を追うようなことはしないと強調している。とはいえ、質の高い成長を実現させるために、次世代IT、バイオ、ハイエンド設備、新素材、新エネルギー、AI、新エネルギー自動車、省エネ・環境保護、デジタルイノベーションなどに代表される戦略的新興産業について、国家が積極的に発展を促している。無差別に投資を拡大させないという意味での質の高い成長だ。

 先進国の間で問題となっている中国電気自動車業界の生産能力過剰だが、現在は化石燃料から新エネルギー自動車への転換が大きく進む時期である。現在の生産能力の内、化石燃料分は早晩淘汰されるだろう生産能力だ。それを除いた生産能力に対して現状は過剰ではない。たとえ、過剰となっていたとしても、それは業者間に激しい競争を引き起こし、コストダウン、イノベーションを加速する効果、産業構造を柔軟に調整する効果が期待できて望ましい。これが中国側の考え方、言い分ではなかろうか。

 国家主導による特定産業の振興は中国社会主義体制の根幹部分に根差している。先進国がどう説得しようが、中国がこれを止めることはないだろう。新エネルギー自動車だけに限らない。中国の生産能力の過剰、経済膨張は止まらない。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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