古都・京都は企業の拠点として注目を集めるだけでなく、ビジネスで成功を収めた者たちが“栄華の証”を構える場所でもある。外国人需要などで地価上昇が続いている京都。だが、一般庶民にはほとんど知られていない特別なエリアがある。
南禅寺界隈別荘群──広大な日本庭園を有する別荘が集まる一画だ。
「権力と欲望の絡んだ街やね、ここは。噂では中国の大物もペーパーカンパニーを使って土地を買ったちゅう話や」
京都駅からタクシーで北東に20分強。平安神宮や哲学の道に程近いこの地域をベテラン運転手はそう評した。
京都先端科学大学教授の名和高司氏が言う。
「『東の田園調布、西の芦屋』と言いますが、田園調布や芦屋の六麓荘町と比べても南禅寺界隈は別格。日本一の高級住宅街です」
一歩足を踏み入れると、静けさのなか周囲と隔絶された街並みが広がる。武家屋敷を思わせる白壁が延々と続くが、なぜ大豪邸が集まっているのか。地元住民が説明する。
「近くにある日本最高位の禅寺『南禅寺』はかつて徳川幕府との関係が深く、明治期の廃仏毀釈に伴う『上知令』で寺領の大部分を明治政府に召し上げられました。土地は民間へと払い下げられ、日本の近代化に尽力した山縣有朋や西園寺公望のほか当時の有力な経済人たちが別荘を建てるようになったのです」
重要文化財でもある「碧雲荘」は野村證券の創業者・二代目野村徳七が築造し、現在は野村ホールディングスなどが所有・管理している。