鉄道と並び、地域の足として最も身近な存在である「路線バス」も廃止や減便が広がっている。その背景には、深刻な運転手不足があり、いわゆる「2024年問題」とも密接につながっている。人口減少問題に詳しい作家・ジャーナリストの河合雅司氏は「これも日本崩壊の始まりを端的に示している」と主張する。
人口減少問題の第一人者であるジャーナリストの河合雅司氏が最新著『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』をもとに解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。
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路線バスの縮小はいまに始まった話ではない。国土交通省の資料によれば、2008年度から2022年度までに2万733キロが廃止となった。
これまでは過疎エリアが中心で、人口減少やマイカーの普及に伴って利用者が減り、慢性的な赤字に陥って持続できなくなるというのが主たる理由だったが、近年は事情が変わってきた。東京23区を含む大都市圏でも路線の廃止や減便、始発時刻の繰り下げ、終バス時刻の繰り上げが目立つ。
大阪府富田林市などで運行する金剛自動車に至っては、2023年12月20日をもって路線バス事業そのものを廃止した。一部は他の事業者に引き継がれたが、大都市の近郊でもバスが事業として成り立たなくなってきている。
大都市圏も含めて路線バス事業が行き詰まりを見せ始めた背景には、深刻な運転手不足がある。厚生労働省によれば、2022年9月時点のバス運転手の有効求人倍率は2.06で、全職業平均の1.20と比べると2倍近い。東京都内で運行するバス会社であっても、思うように新規採用ができなくなっているのである。金剛自動車がバス事業からの撤退を決めたのも運転手を確保できる見込みが立たないことが主要因である。
月の労働時間193時間、年間所得額399万円
なぜバス運転手は不足するのか。最大の理由は少子高齢化で若い世代が減り、なり手が少なくなったためだ。バス運転手だけでなく多くの産業・業種で人手不足が顕在化しているが、そうした中でもバス運転手の不足が深刻化したのは労働時間が長く、所得が低いためだ。
国土交通省の資料によれば2022年の月の労働時間(所定内実労働時間数および超過実労働時間数)は193時間(全産業平均177時間)、年間所得額は399万円(同497万円)だ。人手不足の慢性化は、各運転手に過重労働としてしわ寄せが行く。それが理由で辞める人も少なくない。
人手不足なのに賃金が低いのは、バス事業におけるコストの大部分が人件費であるためだ。運転手の待遇改善をしようにも赤字経営続きではままならない。加えてコロナ禍で企業の体力がかなり消耗した。最近はガソリン代などの燃料価格高騰が追い打ちをかけている。日本バス協会によれば、2020年度から2022年度の3年で全国の路線バスの赤字は4000億円にのぼっている。