河合雅司「人口減少ニッポンの活路」

このまま「路線バス」の廃止・減便が進むと日本各地が“陸の孤島”だらけになる

「路線バス」の廃止・減便がもたらす未来とは(イメージ)

「路線バス」の廃止・減便がもたらす未来とは(イメージ)

 全国各地で「路線バス」の廃止や減便が広がっている。少子高齢化で若い世代が減り、運転手のなり手が大幅に減っていることが最大の理由だが、その影響は、単に一つの交通機関がなくなることだけに留まらない。地域の社会、経済活動にとっても、深刻なダメージを与えることになる。路線バスが抱えている課題から、どんな未来が予想されるのか?

 最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』を上梓したばかりのジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。

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 路線バスの廃止・減便が社会に及ぼす影響というと「買い物難民」や「通院難民」に目が向きがちだが、そんな単純な話ではない。

 住民に一番身近な路線バスというのは、人間にたとえるならば血液を隅々にまで行き渡らせる「毛細血管」だ。血が通わなくなれば壊死が始まる。路線バスは鉄道や飛行機とも密接に結びつき一体的な交通網を築いているので、いずれ日本全体の動脈が壊れていくこととなる。ただでさえ人口が減少していくというのに、人々の動きが滞るようになれば日本経済にとって致命傷となりかねない。

 例えば、鉄道だ。駅の利用者の多くは、路線バスに乗り継いで自宅などへ向かう。もしバスの便数が減ったり、廃止になったりすれば鉄道利用者まで減少する。公共交通機関が細ったエリアはやがて地価が下がり、宅地開発計画も見直しを迫られよう。鉄道の沿線価値も毀損することとなる。

 東京都市圏交通計画協議会が、交通利便性が損なわれたならば人々が外出を控えるようになるとの分析結果を紹介している。とりわけ高齢者が影響を受けやすい。65歳以上の場合、公共交通が便利なところの外出率は67.1%だが、不便なところでは60.2%である。不便なところでマイカーなども使えないとなると39.6%にまで落ち込む。

 今後増える高齢者の6割は東京圏と推計されている。75歳以上の激増が予測される東京圏の郊外でバス路線が廃止・大幅減便となり外出率が下落したならば、東京圏の鉄道各社の経営に大きな打撃となる。バス運賃だけでなく鉄道も値上げせざるを得ない方向へと進むだろう。年金生活の高齢者の外出率をさらに下げることとなる。人口減少社会とは大都市の郊外も含めて全国各地に“陸の孤島”が広がる社会ということである。

 路線バスの縮小は、赤字ローカル鉄道の廃止スケジュールにも影響を及ぼす。鉄道会社と沿線自治体、観光業者などが国の関与のもとで話し合う「再構築協議会」制度がスタートしたが、鉄道を廃止した後の代替輸送の最有力手段として考えられてきたのが路線バスだからだ。バスに転換しても「同じ結論」となれば、赤字ローカル鉄道の廃線に向けた話し合いは暗礁に乗り上げかねない。

 そうなれば、大都市圏の住民も無関係とは行かなくなる。JR各社のローカル鉄道の赤字分は、新幹線や大都市圏を走る通勤電車などの利益で補充されているためだ。大都市の通勤電車運賃のさらなる値上げにつながりかねない。

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