実名ユーザーと匿名ユーザーそれぞれの主張
こうした状況下、実名のユーザーと匿名のユーザーが、相容れぬ互いの正義を主張し合っています。実名のユーザーの主張はこのようなものです。
「我々は組織や家族を背負い、リスクを孕みながら情報発信をしている。匿名の人間はそのリスクがない。いつでもIDは消せるし、失うものがないし、自分の発言を責任を持たず安全地帯から石を投げてくる卑怯者だ。まずは名を名乗れ、顔を出せ、所属組織を言え。私と対峙できるのはそこからだ」
匿名のユーザーの主張は、以下の2つが多いです。
「実名のユーザーはリターンがあるから勝手に実名顔出しをしているだけだ。元々インターネットは匿名文化だし、実名も匿名も平等だった。自分で勝手に実名出して被害者ぶるな」
「あと、実名のユーザーは著名人でフォロワーも多い。そんな人がフォロワーを使って私を一斉攻撃してくる。匿名だからって誹謗中傷をしていいわけではないし、こちらだって愛着あるIDとフォロワーを失うリスクは背負っている。あと、実名がバレた時のダメージは実名のユーザーよりも大きいし、組織からは叱責される」
2つ目の主張に関して、私の知人・A氏が実際に経験した話を紹介します。とある著名人が同氏の所属する会社と仕事をしていました。そんな中、A氏は他の仲間とともにその著名人をXで揶揄し続けたのです。著名人はどこかでピンと来たのでしょう。ある日、『貴殿は○社の課長ではないだろうか? 貴殿の上司にこのことは伝えておく』と書きました。タレコミがあったのか、カマをかけたのかは分かりませんが、これがドンピシャ。後にA氏は上司から譴責を受け、左遷させられました。
実名はミドルリスクミドルリターン、匿名はハイリスクローリターン
実名匿名論争でもう一つのポイントは「実名での投稿は、誹謗中傷の抑止力になるか?」です。大多数の場合は「抑止力になる」と言えるでしょう。それは、今回のパリ五輪へのアスリートへの誹謗中傷に対し、芸能人や評論家等の実名の人々が誹謗中傷者を非難し、アスリートを慮る発言をしていることにも表れています。とはいっても、実名のユーザーの中にも、「敵及びその支持者には何を言ってもいい」と考える人はいます。
特に政治系で顕著ですが、右も左も実名の活動家やジャーナリストは敵陣営の政治家やその支援者を苛烈な言葉で罵ることが多い。それが先鋭化すると、「自身が信じる正義を振りかざせば敵に対しては何を言ってもいい」となります。するとお仲間が拍手喝采し、「もっとやれ!もっとやれ!」と煽るため、エスカレートする傾向にある。だから必ずしも実名での投稿が誹謗中傷の抑止力になるわけではありません。