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赤字続きの郵便事業、30年ぶり値上げでも構造的な経営課題は解決せず 総務省も日本郵便も開けられない「パンドラの箱」

値上げで赤字経営からの脱却となるのか(写真:イメージマート)

値上げで赤字経営からの脱却となるのか(写真:イメージマート)

 日本郵便が7月25日発表した2023年度の郵便事業収支は、営業損益が896億円の赤字でとなった。赤字幅が拡大する中、10月から、封書やはがき代が3割を超す値上げとなる。25グラム以下の定形封書の郵便料金の上限は現行の84円から110円に、はがきは63円から85 円に引き上げられる。郵便の値上げは消費税増税時を除くと、1994年以来約30年ぶりとなるが、果たして赤字続きの郵便事業が反転する契機となるのか?

 人口減少問題の第一人者であるジャーナリストの河合雅司氏が、最新著『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』をもとに解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。

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 日本郵便が今回の値上げ幅を「1.3倍程度」にとどめるのは、国民生活への影響に対する配慮とともに、反動による利用者減を懸念した側面があるようだ。総務省は、1.3倍程度の値上げならば、2028年度の内国郵便物の値上げによる落ち込み分は2億7400万通程度で済むと予測している。

 そうは言っても、現行の郵便料金に慣れてきた消費者にとっては値上げのインパクトは大きい。物価上昇が続く中で消費者の節約志向は進んでおり、「郵便離れ」に拍車がかかることは十分想定される。赤字が膨らむたびに値上げを繰り返したのでは、さらに利用者を失う。それでは赤字ローカル線に悩む鉄道会社と同じ経営課題を抱えることとなる。

 十分に値上げできない現状に対し、日本郵便はコスト削減や業務の効率化、他企業との連携強化をはじめとする新たな収入源の開拓を急ぐ考えを示している。だが、局面を劇的に変えられるアイデアがあるわけではない。

より深刻なのは「ダブルの内需縮小」

 他方、将来を考えると、値上げは問題の先送りと言わざるを得ない。経営の悪化要因は、「郵便離れ」や固定費の増加といった足下の問題だけではない。むしろ深刻なのは、人口減少による利用者減と高齢化という「ダブルの内需縮小」だ。問われているのは当座の赤字経営からの脱却ではなく、今後も事業として成り立ち得るかという点である。

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