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赤字続きの郵便事業、30年ぶり値上げでも構造的な経営課題は解決せず 総務省も日本郵便も開けられない「パンドラの箱」

月の投函数0~1通のポストが約6800本 「郵便ポストの利用状況」

月の投函数0~1通のポストが約6800本 「郵便ポストの利用状況」

 問題を難しくしているのは、公益性が高い郵便事業は、ユニバーサルサービス(全国均一で安定的に利用できるサービス)が法律で義務付けられていることだ。日本郵政には、採算性を見込めない過疎地であっても均一のサービスを提供することが求められている。すべての商店が撤退・廃業した二次離島(本土との間を直接結ぶ公共交通手段がない島のこと)に郵便局だけは残っているケースが見られるのもこのためである。

 ユニバーサルサービスの維持コストの拡大が、将来的に経営上の大きな重荷になってくることは総務省も日本郵便も分かっているはずだ。だが、これを見直して郵便サービスが届かなくなる地域を生じさせれば、そこの衰退は避けられず、地域住民の猛反発が予想される。パンドラの箱を開けるようなものなのである。

 しかしながら、人口が激減する日本においてはユニバーサルサービスの維持は極めて困難である。人口は全国一律に減るわけではなく、減少が激しくなるほど地域偏在は拡大する。すなわち、郵便事業が採算割れする過疎エリアは拡大の一途ということだ。

 人口減少がユニバーサルサービスの維持にもたらす悪影響はそれだけではない。少子化による人手不足が、最低限必要な郵便局員数の確保を困難にする。働き方改革に伴って運転手が不足する「物流2024年問題」がすでに深刻化しているが、業務委託を含め郵便物の配達要員はさらに足りなくなりそうだ。

『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)

『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、最新の統計データに独自の分析を加えた未来図を示し、これからの日本が人口減少を逆手に取って「縮んで勝つ」ための方策を提言している。

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