「家族信託」で本人のお金を小さく見せる
では、家族信託だとどういう形になるのか。
「家族や親族、あるいは血縁のない知人であっても構いませんが、本人が元気な内に信頼のおける人と契約し、預貯金等の資産を預かってもらう形になります。重い認知症などで判断能力がなくなると契約できないので、その点は注意が必要です。
契約の内容は自由で、たとえば、本人に息子さんと娘さんがいるとして、預貯金の8〜9割を息子さんの口座に移し、残りを自由に使えるお金として自分(本人)の口座に残し、まとまったお金が必要なときは娘さんの許可を経て、息子さんが渡すといった管理の仕方もできます。不動産資産がある場合も、アパートの賃貸経営をしているなら、家賃収入を息子さんの口座で管理する形にすることも可能です」(杉谷氏)
信頼のおける人に資産の大部分を預け、本人の意思だけで自由に扱える金額を制限することで、詐欺の被害を未然に防ぐことができるというわけだ。
高齢者が狙われる詐欺の手口には振り込め詐欺や架空請求詐欺、還付金詐欺、訪問販売詐欺などさまざまあるが、「この口座に振り込め」「キャッシュカードを渡せ」「この商品を買え」と指示されても、本人の口座に残っているお金はわずかだから、盗られても最小限に抑えられる。法的には私文書による契約でも有効だが、その後の相続や税務トラブルを避けるうえでは公正証書による契約が望ましいという。
ただ、冒頭で挙げた事件のように、二束三文の不動産を購入する契約書にサインしてしまった場合はどうか。
「被後見人(本人が成年後見制度を利用)なら、サインしても契約を取り消せますが、家族信託では取り消しはできません。ただ、この中古物件を高額で売りつける詐欺事件の容疑者らの場合、被害者に通帳を出させて残高を確認していたようですから、お金がわずかしかなければ、ない袖は振れないわけで、諦めるのではないでしょうか。
それでも売買契約書にサインさせたという場合、お金を払わなければ債務不履行になり、自宅などを差し押さえられる可能性がありますが、自宅は信託で息子さんへ名義変更しておけば守れますし、そもそも、こうした詐欺集団が裁判所に訴えて資産を差し押さえるというのは考えにくい。原則、5年間支払わなければ時効になります」(杉谷氏)