今年の夏の第106回全国高等学校野球選手権大会は、甲子園球場での開催が始まってちょうど100回目。グラウンドでの熱い戦いだけでなく、球児たちを支える母にもドラマがある──。【母たちの甲子園・第4回。第1回から読む】
時間にお金、鉄の掟に、息子との別離──それらを経て甲子園を目指す中で、避けて通れないのがレギュラー争いだ。3人の息子全員が高校球児だった生活を著書『汗と涙と茶色弁当』に記した石川典子さんはこう語る。
「長男は周りの実力がすごすぎてベンチ入りできなかったけど、3年間一度も練習を休みませんでした、次男は最初こそ不真面目だったけど、途中で“何のためにおれはここにいるのか”と奮起して最後の大会でレギュラーを勝ち取った。三男は公立なのである程度は学校の勉強をしつつ、レギュラーになって打倒私立を目指しました」
選手の成長に驚かされた
だが苦労してレギュラーを勝ち取っても、その先に更なる試練がある。甲子園で優勝するのは全国1校のみで、その他のチームは必ず敗れる。ひとつのストライク、ひとつのミス、一瞬の判断やプレーが勝敗を決するシビアな高校野球。
神奈川県の名門・横浜高校野球部を長年率いた渡辺元智氏の次女で、同部の寮母を20年間務めた渡辺元美さんは、春夏合わせて5度の優勝を誇る横浜高校の選手たちが敗れて涙する姿を、「母」として何度も見た。
大舞台での優勝を目指していた選手たちが県予選で敗れると、学校に帰ってきてもボロボロに泣き崩れてバスを降りることができない。当初はかける言葉もなくたたずんでいた渡辺さんだが「負けたときこそしっかり受け入れないとダメだよ」と母から諭されて変わったと話す。
「それからは、降りてこられない選手をバスまで迎えにいって『よく頑張ったね』と声をかけるようになりました。もちろん勝てばうれしいけど、負けた選手を受け入れることをより大切にしてきました」(渡辺さん)