寄り添い、励ましながら選手の成長に驚かされることもある。
「いま中日ドラゴンズにいる柳裕也くんが高校3年生のときの県予選で、横浜高校が準々決勝で負けてしまったんです。部員が泣き崩れる中、キャプテンだった尾関一旗くんが『これだけ支えてもらったのに、甲子園に連れていけなくてすみませんでした』って言いに来てくれた。
キャプテンがいちばん悔しいはずなのに、そう言ってもらって言葉になりませんでした。私たち大人が高校球児から教わることってすごく多くて。選手たちがこれほど頑張っているのだから、自分もいろんなことにきちんと向き合いたいなと学ばせてもらいました」
汗と涙の野球生活を通じて、18才の少年と見守る母たちが手に入れたものは、勝利の喜びや仲間との絆だけではない。共に甲子園球児を息子に持つAさん(46才)、Bさん(49才)、Cさん(58才)が語る。
「夢を追いかける喜びと、努力は裏切らないこと」(Aさん)、「人生の輝かしい1ページ。甲子園に出るまで頑張った経験は得難い」(Bさん)、「根性や努力することの大切さ。チームワークの大切さも知ることができたはずです」(Cさん)──母たちはそれぞれに息子が得た「宝物」を、自分も見つけた“当事者”としてそう口にする。
母たちの熱い戦いと祈り
8月11日、大会5日目第1試合の鳴門渦潮(徳島)対早稲田実業(東京)戦では、早実のアルプス席が沸いた。2006年夏の大会の決勝再試合で駒大苫小牧(南北海道)に競り勝って優勝した早実の日本一メンバーが顔を揃えたのだ。“ハンカチ王子”と呼ばれた早実・斎藤佑樹と苫小牧・田中将大の息詰まる投げ合いは、甲子園屈指の名勝負との呼び声が高い。
繰り広げられる熱戦は、どれひとつとして盛り上がらない試合などないが、ドラマチックな展開では、ベンチやアルプス席のこれ以上ないほどの熱気や息詰まる様子がテレビの画面越しでもわかるほどだ。
「一体感というのかな。レギュラーになれず応援する選手たちがナインと一体になっている感覚。グラウンドで繰り広げられる試合の音や熱がひしひしと伝わってくる感覚があります」