「医師多数地域」ほど医師が増える“不都合な数字”
地域の医師の確保が目的なので、政府は定員増を図るだけでなく医学部に「地域枠」を設け、目標医師数や医師確保に向けた施策を定める医師確保計画の作成を都道府県に求めてきた。
地域枠合格者は地元定着率が約9割と高く、「地域偏在」の解消には一定の成果を上げたが、医師を増やすという手法には限界がある。人口10万人あたりの若手医師数で見ると、とりわけ病院の勤務医においては多数県より少数県で若手が少ない傾向にある。
さらに不都合な数字は、2022年に厚労省が示した2016年と2020年の医師偏在指標の比較データだ。都道府県単位、二次医療圏単位のいずれも最大値と最小値の差がさらに開いていたのである(二次医療圏とは、一般的な入院治療が完結するように設定した区域。通常は複数の市区町村で構成される)。二次医療圏においては医師多数地域でより医師が多くなり、少数地域で少なくなっていた。
「医師不足」を生じさせる要因は地域の偏在だけではない。仕事がハードな外科や、少子化で需要が落ち込んでいる産科、小児科などのなり手が少ないといった診療科の偏在も存在する。
2024年度からは働き方改革にともなって医師の労働時間に罰則付きの上限が設けられたが、これは医療機関内の医師不足に拍車をかけそうである。医師1人あたりの仕事量が増え、これまでは現場を支える医師が長時間労働をすることでしのいできたが、こうした自己犠牲的なやり方は通用しなくなる。
こうした部分的な「医師不足」をことさらクローズアップして、医学部定員の削減に反対する勢力が少なくないが、そもそも日本全体としては医師が不足していないのだから地域偏在の解消効果が限定的であることを考えれば、医学部の定員増は社会としてはマイナスのほうが大きい。