非正規雇用者にも大きなメリット
こうした解雇規制をめぐる議論は正規雇用の社員を対象にしているが、今や労働者の約4割を占める非正規雇用者の場合、現状で、すでに“いつでもクビを切れる”状態なので、解雇規制の見直しや緩和は直接的に関係なさそうに思える。しかし、実際には大きなメリットがあるという。
「解雇規制が緩和されると、正規と非正規の雇用形態の差が今までより小さくなるので、今、非正規で働いている人も正規で採用されるチャンスが増えます。
バブル崩壊後に新規採用が激減し、非正規の仕事にしか就けなかった就職氷河期の世代は、その後、2000年頃に少し景気が上向いたときに正社員に応募して採用されたかというと、雇ってもらえず、非正規からキャリアをスタートした人材を採るのを企業は避けた。
しかし、正規雇用のハードルが下がれば、氷河期世代にもチャンスが生まれるし、他にも病気や出産などでブランクがある人やシングルマザーなども再就職しやすくなります。氷河期世代はもう40代になっているので、もっと早くやるべきだったと思いますが、これからは70歳まで働くのが当たり前になるので、やる意味がないとは思いません」(城氏)
同じ仕事で、雇用形態が正規と非正規に分かれている場合、解雇規制緩和で市場メカニズムが機能するようになれば、雇用保障のある正規雇用より、非正規の方が賃金が高くなる可能性もあるという。生活やワークスタイルの変化に合せて、正規と非正規を行ったり来たりすることも可能になる。
他にも、解雇規制緩和には労働者にとってメリットがある。
「これまで述べてきたのは大企業の例で、日本企業の9割を占める中小企業の中には、解雇規制をまったく無視して、正当な理由もなく、上乗せどころか退職金も何もなしで社員を解雇する会社がけっこうあります。会社を訴えれば勝てますが、裁判をする時間もお金もないということで、ほとんどの人が泣き寝入りをしている。しかし、金銭的解雇のルールを定めれば、今までもらえなかったお金がもらえるようになります。ですから、中小企業の場合は、安易に解雇ができなくなるので、規制の『緩和』というより『強化』として作用します」(城氏)
大手メディアは、解雇規制緩和で「すぐにクビを切られるようになる」と煽っているが、実際には非正規雇用の人や中小企業で働く人にまで大きなメリットがあり、損をするのは、「ろくに仕事をしていないのに高給を得ていて、定年まで逃げ切ろうとしている層」ということになる。朝日新聞の世論調査で、若年層が解雇規制緩和を支持している結果が出ているのは、非正規で働いている若者が多いからだけでなく、正規雇用の人でもそうした“消化試合中”の中高年を社内で見ているからかもしれない。
取材・文/清水典之(フリーライター)