9月27日に投開票を控える自民党総裁選の主な争点として、裏金事件、憲法改正、解雇規制の見直しなどがあるが、「今、この国の政治家が議論すべき最大のテーマは、『国家の衰退からどう脱するか』である」と断じるのは経営コンサルタントの大前研一氏だ。少子高齢化が進むなかで日本の衰退をどう食い止めればよいのか。大前氏がリポートする。
* * *
衰退の原因は、少子高齢化以外にいくつもある。
たとえば、日本には「地方自治」がないことだ。改憲を議論するのであれば、地方分権や地方創生を阻害している憲法第8章を俎上に載せるべきだが、そうはなっていない。おそらく総裁選の候補者たちは誰も第8章の条文をきちんと読んだことがないのだろう。
拙著『君は憲法第8章を読んだか』で述べたように、第8章は「地方自治」という章でありながら、統治機構の基本となる「地方自治体」(都道府県と市町村)について何も定義されていない。我々が「地方自治体」と呼んでいるものは、第8章では「地方公共団体」とされ、都道府県や市町村は“地方における行政サービスを国から委託された出先機関”でしかない。
憲法草案を作ったアメリカ人は自国が連邦制のため、日本が江戸時代から350年も続いた過度な中央集権体制になっていることを理解していなかった。だから第8章は全く見当外れとなり、そのため日本の地方は寂れる一方なのだ。
また、市町村については「平成の大合併」の効果が全く検証されていない。1999年に3232あった市町村が2010年には1727(現在は1718)になったが、今日に至るまで大合併前に比べて良くなったのか悪くなったのか、何の発表もない。企業であれば、あり得ない杜撰さだ。
選挙制度の問題もある。
今日の政治の劣化を招いたのは、1996年に導入された衆議院議員選挙の「小選挙区比例代表並立制」だ。その弊害は甚大で、人口25万~50万人の“おらが村(選挙区)”への我田引水しか考えない小粒な議員ばかりになってしまった。さらに、小選挙区と比例代表に重複立候補した場合、小選挙区で落選しても「惜敗率」によって比例復活する“ゾンビ議員”が続出するという歪みもある。
もう1つは、国民投票の投票権年齢や公職選挙法の選挙権年齢などを20歳から18歳に引き下げたことだ。民法上の「成年年齢」は18歳になったが、酒やタバコ、公営ギャンブルの年齢制限は20歳のままである。何をもって「成人」とするのかが明確に定義されていない稀有な国なのだ。