防火性や耐火性が高く、地震が起きても地上より揺れが小さい──海外では地下シェルターが一般化する国も少なくなく、「有事の際にも地下は安全」と思われてきた。しかし、果たして本当にそうだろうか。太平洋沿岸のプレートの跳ね上がりで生じる南海トラフ地震は、今後30年以内に70~80%の確率で起こるとされ、その規模はM8~9クラスと桁外れだ。
南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの2019年の試算では、想定死者数は最大23万1000人に達する。
また東京都や近隣県の内陸を震源とするM7クラスの地震を指す首都直下地震は、30年以内に70%の確率で発生すると政府は予測している。その中でも最大級の被害が想定される「都心南部直下地震」が起きた場合、約20万棟の建物が全壊・焼失し、約6100人が亡くなるとの試算もある。
地震大国である日本は、これまで幾度もの大地震を経て、地上だけでなく地下の安全についても対策がなされてきた。
1995年の阪神・淡路大震災では、神戸高速鉄道大開駅の天井を支える支柱が折れて地下鉄の駅が崩壊した。
その後、鉄道会社や自治体などが耐震補強工事を進めた結果、現在では「地震において地下は地上より安全」とされている。災害危機管理アドバイザーの和田隆昌さんが語る。
「地上の建物が全部倒壊する状況でも、地下そのものは大きな揺れになりません。2011年の東日本大震災のときも地下鉄や地下街の被害はとても軽微でした」
ただし、地下では「揺れ」よりも恐ろしい災難に見舞われやすくなると和田さんは続ける。
「地下街には飲食店などの店舗が入っているので、地震後に起きる火災やそれに伴う煙に巻き込まれる恐れがあります。また、連結するビルなどの火災の煙が滞留して、一酸化炭素中毒で命を落とす危険もある。さらに大勢が地下に閉じ込められた場合、酸素不足に陥ることも予測されます」